このページの本文へ移動

ここから本文です。

ホーム  企業情報  NTT西日本グループのサステナビリティ  ステークホルダーダイアログ

Stakeholder Dialogue 宮崎県諸塚村における民有林集約化のJ-クレジット、
再造林促進の取組み

2021年4月、NTT西日本は山村を豊かにする森林・林業DXの推進をめざし、
諸塚村やNTT西日本等、産官学・地域連携6者による「諸塚村森林・林業DX推進協議会」を設立し、
ICTやデジタルデータを活用した実証事業を実施しました。
以来、実証事業で得られた成果をもとに、
伐採後に再度苗木を植栽して育てる“再造林”に着目したプロジェクトに取り組んでいます。
今回、森林・林業DXのさらなる発展に向けて、
これまでの取組み状況や今後の展望について関係者で話し合ったダイアログの模様をお届けします。

諸塚村の課題とNTT西日本グループの姿勢

NTT西日本は、長年にわたり電話サービス等の情報通信インフラサービスを提供しています。地域に根ざした事業展開を軸とする私たちにとって、それぞれの地域の事情に沿った課題解決、さらには持続的な発展や成長に貢献することは責務であり、歴史的にも強い使命感と誇りを持って取り組んでいます。

近年、全国の自治体は、少子高齢化や人口減少に加え、台風や地震等の自然災害への備えといったさまざまな課題に直面しています。各自治体や企業・組織等の皆さまがこのような課題の解決に向けたさまざまな施策を講じる一方、ノウハウや技術面に課題を抱えている場合も多く、私たちNTT西日本がICT等でお手伝いできる場面が多々あるのではないかと考えています。諸塚村においては、これまで住民の皆さまによってしっかりと管理し、守り続けられてきた森林をより効率的な森林経営にするためのお手伝いをさせていただいています。

横奥宏明 NTT西日本 宮崎支店長

宮崎県の山間部に位置する諸塚村は、平地が少なく、標高1,000mの山々に囲まれた村です。平地が少ないため農業のみをなりわいとすることは難しく、林業を主体とした村づくりをつないできました。また、恵まれた森林資源を活かした先進的な取組みとして、2004年に自治体ぐるみとしては国内で初のFSC®森林認証を取得しています。認証取得によって、今までにない新しい取組みや出会いがあり、さまざまな可能性を広げてきました。

一方で、長年の課題である少子高齢化や人口減少は林業の担い手不足にも拍車をかけています。また、2022年と2023年に立て続けに起きた台風による被害からの復旧も課題の1つです。被害箇所が多く、現在も木材の搬出等へ影響が出ており、住民の皆さんの安全・安心の確保のためにも1日も早い復旧・復興に取り組んでいます。

藤﨑猪一郎 様 宮崎県諸塚村長

耳川広域森林組合は、造林・保育からなる森林事業を中心に、森林所有者が協同して林業の発展をめざす協同組合です。2000年に諸塚村をはじめとする耳川流域にあった8つの森林組合が合併するかたちで誕生しました。森林事業だけでなく、伐期を迎えた森林の主採、丸太の加工、販売を行う加工部門も設置しており、所属する組合員の森林資源を最大限活用するため、各部門同士が連携して事業活動を行っています。

私たちが管理している耳川流域の森林の総面積は約10万8,000haにも及びます。しかし、造林費用の負担増加や林業の従事者不足等により、現在はそのうちの1割にも満たない500ha程度でしか再造林を行うことができていません。組合の発足当時は500名以上いた作業職員は、高齢等の理由から半分以下の220名にまで減少しています。それでも、なんとか踏ん張って流域全体の再造林に取り組んでいますが、藤﨑村長もおっしゃるように、林業の担い手不足は私たちとしても重要な課題です。

平野浩二 様 耳川広域森林組合長

ICTを活用した“森林の見える化”

私たちが林業に対して何かお手伝いできることがないかと考えたとき、前提として、諸塚村の森林は長年にわたり林業を担ってこられた皆さんの手によってしっかりと管理されてきたという特徴がありました。管理が不十分な場所に対してデジタル化するのではなく、しっかりと管理できているからこそ、DXの力を加えることでそれら森林情報をデジタル化し、恒久的に残していきたいと考えました。そこで、まずはそれに向けた体制を整えるため、2021年に諸塚村、宮崎県森林組合連合会、NTT西日本の3者が発起人となり「諸塚村森林・林業DX推進協議会」を設立しました。

DX推進協議会では、森林の持続的で効率的な管理の実現に向け、森林資源の状況・資産価値をデータ化した“森林の見える化”の実証事業を行いました。諸塚村内の山林にてドローンを活用した調査を行い、台風による被害状況の確認、実証区域内の伐採する立木の種類や品質、樹高等を計測し、材積の算出を試みました。

これらの情報をクラウド上に蓄積することで、区域内の森林所有者がタブレットを用いてクラウドへアクセスした際、所有する山林の空撮記録、森林情報、資産評価等を閲覧することができます。また、これらの情報をもとに行う所有者と森林組合との施業プラン策定の効率化や安全対策についても検討しました。

※製品となる木材や丸太の体積

佐藤喜代光 様 諸塚ARC(Action of Reforest for J-Credit)プロジェクト協議会長

私は諸塚村の森林所有者のひとりとしてこの実証事業に参加させていただき、ICTを活用した森林・林業のDXを実際に体験しました。今後、山間地域における林業での活用方法や費用対効果の改善等が図られ、持続的な森林経営に活かされていくものと期待しています。

森林クラウド個人画面イメージ

「J-クレジット制度」による新たな森林の付加価値創出

J-クレジット制度事業取組みイメージ

協議を重ねていく中で、森林の新たな付加価値創出に向けたプロジェクトの1つとして「J-クレジット制度」に行き着きました。J-クレジット制度は、適切な管理がなされた森林によるCO2等の温室効果ガスの吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。クレジット化し、売買することによって森林事業がもたらす新たな付加価値になると考えています。当事者の中で、対象となる造林地を疑似的に集約化することで諸塚村を1つのプロジェクトとするアイデアがあがり、これがJ-クレジット制度とぴったり合致しました。

このプロジェクトでは、再造林によって植えられた苗木が成長していく過程で吸収するCO2を「クレジット」として創出します。しかし、CO2削減方法としての再造林のクレジット化には前例がなく、J-クレジット制度へのプロジェクト登録に向けた審査には度重なる協議と膨大な書類が必要となりました。このような前例のないプロジェクトにもかかわらず、NTT西日本の皆さんには多大なる支援をしていただきました。また、ドローンによる測量をはじめ、さまざまな客観的なエビデンスを高めていったからこそ、J-クレジット制度への登録に至ったと考えています。

そうですね、NTT西日本の皆さんは、もちろん林業についてはプロフェッショナルではなかったわけですが、一生懸命に勉強されて、今では専門的な意見をたくさん出していただいています。プロジェクトが登録できたことは、NTT西日本の皆さんが諸塚村の住民とも直接話をしながら、初めてのプロジェクトにも前向きに取り組んできた結果だと思います。

再造林を対象とした今回のプロジェクトでは、木が育つ段階で価値が生まれます。これまでにない取組みであり、新たな財源にもなるため、組合と森林所有者のどちらの立場からしても嬉しい取組みと感じています。本プロジェクトの対象として登録された森林の所有者で構成された「諸塚ARCプロジェクト協議会」ですが、協議会としての基本的な体制や方向性が決定し、プロジェクト自体がまさにこれから動き始めようとしている段階にあります。

しかし、再造林によるCO2吸収量のクレジット資金化は、村民の皆さんにとってはまだまだわかりにくい部分が多いと感じています。今後、得られた資金による恩恵等を森林所有者一人ひとりが実感することで、再造林によるCO2吸収の理解、再造林のさらなる推進につながっていくと考えています。

より一層カーボンニュートラルの実現をめざして

諸塚村における再造林率はほぼ100%を達成しています。今回のプロジェクトではこの再造林が評価され、そこに付加価値が生まれました。これは森林所有者にとっては大きなメリットです。取組みはまだ始まったばかりですが、今回の取組みを機にJ-クレジット制度事業の普及が図られるよう連携して取り組んでいきたいと思います。

2023年11月末にJ-クレジット創出申請書を提出し、2024年1月に約2,200tのクレジット創出が認定されました。認定以前からこのプロジェクトに関心を示してくれている企業もあり、いよいよ販売という段階に辿り着けたことで、期待が高まっています。このプロジェクトをより一層広く紹介し、多くの方に理解していただくことで森林由来のJ-クレジットに注目してもらいたいと思います。

このプロジェクトは、先人たちの林業の歩みを、諸塚村の皆さんが継続して行ってきたからこそ実現できたことだと思います。持続可能な林業は、再造林を出発点に木の成長に合わせた管理を続けていくことが重要です。デジタルツールを活用しながら、効率的かつ効果的な森林経営やプロジェクト運用を図り、これからも都市と山をつなぐ持続的な林業の推進に邁進していきます。

実証事業を通じ、ドローンやデジタル技術を駆使した森林情報の計測・デジタル化・解析等、ICT化のトライアルができたと考えています。これからも引き続き、30年、50年と長期間にわたる林業のサイクルの中に、デジタル技術を効果的に取り入れるお手伝いをすることで、永続的な森林経営の実現に貢献していきたいと考えています。

私たちNTT西日本の中でも、本プロジェクトはカーボンニュートラル社会の実現に向けた最先端の取組みです。諸塚村に限らず多くの地域で、林業のデジタル化やクラウド化が当たり前のことになるよう、またこれらデジタルツールが若い世代も含めて使っていただけるよう、より良いものをつくり上げ、林業の担い手不足解消、持続的な森林経営実現の一助となれるよう、努力と挑戦を続けていきたいと思います。


NTT西日本グループのサステナビリティ