文化・人

暮らしにそっと溶け込む技術を、アニメで描く。“愛される未来”に込めたCMの意図

暮らしにそっと溶け込む技術を、アニメで描く。“愛される未来”に込めたCMの意図
モグラのイラスト

この記事の目次

この記事の内容【読了時間19分】

NTT西日本が、はじめてゼロからつくったオリジナルのアニメCM。テレビで流れてきたとき、「あれ、これって何のCM?」って思った人もいるんじゃないかな。どうしてアニメーション(以下、アニメ)で描いたんだろう。あの最後の合唱のシーンには、どんな仕掛けがあるんだろう。そして「愛される未来へつなげよう。」という言葉に込められた想いって——。つくった人たちの話を、いっしょに聞いてみよう。

interviewee 今回、話を聞いた人

村井 文香さん

村井 文香(ムライ アヤカ)さん
NTT西日本
経営企画部 広報室 宣伝担当

塚本 康太さん

塚本 康太(ツカモト コウタ)さん
ADKマーケティング・ソリューションズ
シニア・クリエイティブ・ディレクター
アートディレクター

大石 直さん

大石 直(オオイシ スナオ)さん
NTT西日本
広報室長

松浦 凜さん

松浦 凜(マツウラ リン)さん
ADKマーケティング・ソリューションズ
ビジネス・プロデューサー

はじめてのアニメのCM。どんな想いから生まれたんだろう?

1.NTT西日本がはじめてのアニメCMで伝えたかった「通信だけじゃない未来」

2026年3月から流れはじめた、NTT西日本の新しいCM。やわらかな線で描かれた高校生が、海辺の街で暮らす——そんなアニメCMです。まずは、このCMで伝えたかったことから伺いました。

取材に応じるNTT西日本とADKのみなさん
「通信だけじゃない会社へ」。 はじめてのオリジナルアニメCMに込めた想いを語る、 NTT西日本とADKのみなさん。

——今回のCMで、最も伝えたかったことは何でしょうか?

村井さん:NTT西日本は通信の会社というイメージが強いと思うのですが、通信だけではなく、それを基盤にいろいろな技術やアイデアを重ね合わせて、地域のみなさんと一緒に未来をつくっていく存在だということを伝えたかったんです。CMの中にはいくつか技術が登場しますが、それを前面に押し出すというよりは、自然と暮らしの中に溶け込んでいる世界観を描きました。少し先の未来に、私たちの取り組みがこんなふうにいきていったらいいな、という思いも込めています。

——ゼロからつくったオリジナルのアニメCMは、今回が初めてだそうですね。

村井さん:はい、オリジナルのフルアニメは、これが初めてです。これまでもCMでアニメを使うこと自体はあったのですが、それは既存のキャラクターを活用して表現するものでした。今回のように、ストーリーもキャラクターも、舞台になる海辺の街並みまで、すべてゼロから完全にオリジナルでつくり上げるのは、NTT西日本にとってまったく新しい挑戦だったんです。

大石さん:これまでのCMとは、企画そのものが根本から違いました。ここまで思い切って制作手法を変えたのは、ちょうど会社が、社名やCI・ロゴを新たにする大きな転換期を迎えていたからなんです。新たに踏み出すこのタイミングだからこそ、表現方法そのものから刷新する。その象徴的な第一歩が、はじめてのオリジナルアニメCMになる、という考え方でした。

技術を、暮らしの中にそっとなじませる。そういう未来を描きたかったんだね。

ウインクするモグラ

あの世界観を伝えるのに、どうしてアニメを選んだのかな?

2.なぜアニメだったのか。実写ではなくアニメを選んだ理由

ちょうどこのCMの少し前、NTT西日本は社名を変え、CI・ロゴも刷新したばかりでした。アニメという手法は、その節目とも深くつながっています。

——アニメという表現手法を選んだ背景を教えてください。

村井さん:今回のCMでは、具体的なサービスというよりは、私たちがめざしている世界観やイメージを伝えたいと思っていました。その意味で、実写よりもアニメのほうが、抽象的な想いを伝えやすかったんです。それに、ちょうど社名変更とCI・ロゴの刷新という、会社としては大きな節目でもありました。通信以外の領域にチャレンジするという意味で、CMからも刷新感を出したくて。これまで手がけてこなかったアニメという手法に挑戦したかった、というのがもう一つの背景です。

——実写ではなくアニメを選んだ、最終的な決め手は何でしたか?

大石さん:CMって、発信するだけでは意味がなくて、ちゃんと届いて、はじめて見てもらえるものなんですよね。お客さまや社会にどうリーチしていくか、どの表現がいちばん良いかを全員で議論して、アニメという結論を出しました。CMには「認知」と「関心」の二つが重要だと思っています。「認知」してもらうには、小さな“違和感”が必要。実写のCMが多い中でアニメが流れてくると、「あれ、何のCMだろう?」という引っかかりが生まれます。もう一つの関心には“共感”が必要で、キャラクターやストーリーにどれだけ共感してもらえるか。この二つを考えたとき、最適な表現方法としてアニメを選択しました。

取材に応じる村井さん

主人公は地域で暮らす高校生。
学生という立ち位置が、 幅広い世代の共感につながると考えた。

——舞台が瀬戸内のような風景なのは、狙いがあったのですか?

大石さん:私たちから「瀬戸内で」とお願いしたわけではないんです。「西日本エリアをイメージできるまち」とお願いして、上がってきた舞台設定が瀬戸内でした。海と島が連なる景色は、西日本らしさを象徴している。監督がそういうイメージを持って設定してくれたのだと思います。SNSでも「あのまちは尾道ではないか」とつぶやかれていたり、瀬戸内を思い浮かべる人が多かったようですね。

取材に応じる大石さん

“引っかかり”で気づいてもらって、“共感”で心に残す。アニメは、その両方にちょうど合っていたんだね。

メモを取るモグラ

30秒の中のたくさんの工夫。どうやってつくっていったんだろう?

3.アニメCM制作の裏側。技術を暮らしに“溶け込ませる”工夫とこだわり

はじめてのオリジナルアニメCM。その制作現場には、実写とはまったく違う難しさと、細部へのこだわりがありました。

——アニメならではの難しさは、ありましたか?

塚本さん:いちばんは、工程がまったく違うことですね。最初に監督が演出コンテをつくり、それをもとにレイアウトや背景を描き、動きをつけて……という細かい工程があるんです。しかも、動き出すと修正が効かなくなる。早い段階でいろいろなことを固めなければいけないのが、いちばん難しい点でした。

——その難しさを、どう乗り越えたのでしょう?

塚本さん:とにかく、準備の段階からこまめに連携を取って、早めに方向性を固めていく。そこを強く意識しました。NTT西日本さんのCMは、もう何年もご一緒してきましたが、今回はとくに、お互いのテンポがぴったり合っていたように思います。一緒に判断を重ねながら進められたのが、大きかったですね。

大石さん:私たちが相談を持ちかけると、塚本さんや松浦さんは「できる・できない」だけではなく、いつもいくつかの選択肢を一緒に考えてくれるんです。そうやって候補を並べて、最適なものを二人三脚で選んでいく。だから迷わず前に進めたのだと思います。

——技術を“自然に溶け込ませる”ために、どんな工夫をされたのですか?

村井さん:実写でロボットや自動運転バス等の技術をたくさん出すと、つくり込んだ感じ、不自然な感じに見えてしまうと思うんです。技術が生活に溶け込んでいる世界観は、アニメだからこそ表現できた部分だと思います。ロボットも、今あるものそのままではなく、少しデフォルメして親しみを持てるデザインに。受付や掃除など複数の種類のロボットが、ワンカットの中で同時に動くことで“人びとと調和している感”を出しています。

大石さん:EVバスも、パッと見はただのバスに見えるんですよね。それを、窓から運転席が透けて運転手がいないとわかるようにしたり、エンジン音ではなく静かな電気の音にしたり。細かいところをつくり込んでいます。気づかないくらい自然に流れていることが、CMとしては正解だと思うんです。

松浦さん:私が好きなのも、まさにそういうシーンなんです。バス停で主人公とお母さんがバスを待っていて、EVバスが自然に入ってくるところ。それから、合唱フェスティバルの会場でロボットがそれぞれ動いているところ。日常生活の中に、NTT西日本のテクノロジーがうまく溶け込んでいるのが表れていて。遠すぎず、リアルな未来感がよく見えたシーンだなと思います。

談笑するNTT西日本とADKのみなさん

——いちばんこだわったシーンは、どこですか?

塚本さん:最後の空間伝送のシーンですね。離れた場所どうしを、まるで同じ空間にいるようにつなぐ技術で、合唱する主人公と、それをリモートで見守る両親の空間が、ふわりと重なって広がっていく。二つの空間がつながっているように見えるかどうかが、いちばんのポイントでした。実はあのシーンは3DCGで、ホール全体を360度つくり込んでいるんです。何度も手直しをして、監督ともいちばんこだわった部分です。

村井さん:あのIOWNの空間伝送の概念を、ご存じない方にどうわかりやすく伝えるか。ただのリモート中継に見えないように、同じ空間を共有している感をどう出すか。見せ方も含めて、いちばん手をかけたところです。

松浦さん:私も、ここがいちばんこだわって、議論を重ねた部分だと思います。実は私自身、大阪・関西万博のNTTパビリオンであの技術を体感したんです。リアルに体感できるからこそわかりやすいんですけれど、それを二次元の絵に落とし込んで、技術の壮大さやわかりやすさをどう伝えるか、すごく悩みました。なので監督に、自分がパビリオンで感じたメモや感想を資料にして送った覚えがあります。「ぞわっと振動が伝わってきた」みたいなことまで、文字でお伝えして。

——おふたり(NTT西日本・ADK)の間に立つ営業の立場では、どんなご苦労がありましたか?

松浦さん:双方に思いがあって、しかもどちらも正しいんですよね。だから、どちらかを取るというよりは、AとBがあればCを取る、という方向に議論を重ねていきました。あとは、それぞれがそれぞれの言葉で説明するので、同じ言葉でも受け取り方が違うことがあるんです。それを噛み砕いて、つくり手のスタッフに伝えていく。そこは、こだわった場面ほど頑張らないといけなかった部分でした。みなさんが丁寧に何度も説明してくださったからこそ、できたのかなと思います。

合唱する主人公と、それを見守る両親。
二つの空間が重なり広がるラストは、 3DCGでホールを丸ごとつくり込んで生まれた。

——ほかに、印象に残っている工夫はありますか?

村井さん:ラストカットの街並みが、実は手描きなんです。紙に絵の具で描いたものをデジタルに取り込んでいる、と伺って。デジタルだけで仕上げることもできたはずなのに、あえて手で描くことで、絵の具がにじむような温かさが画面に残るんですよね。技術が次々と登場するCMだからこそ、最後は人の手のぬくもりで着地させる。その緩急が、見終わったあとのやわらかい余韻につながっているように思います。

——アニメと羊文学さんの楽曲「ランナー」の組み合わせも印象的ですよね?

大石さん:「ランナー」は、一歩前に踏み出す気持ちを歌った曲なので、社名変更やCI・ロゴ刷新を経て、私たちも新たに一歩踏み出すこのタイミングに、すごくマッチしていると思いました。疾走感のある映像にも、曲調がよく合っていると感じました。

松浦さん:私は一歩を踏み出す気持ちに加えて、走り続ける人を応援してくれるような曲だなとも感じました。地域のみなさんと一緒に、同じ方向へ、愛される未来へ向かって走り続ける。そういうNTT西日本の存在価値と、すごく似ているなと思ったんです。それに、羊文学さんの声って、繊細な音の中にすごく力強さがある。それがCMに、情緒的で熱い思いを付け加えてくれたのかなと思います。

——制作全体を振り返って、どんな現場でしたか?

大石さん:塚本さんや松浦さんも含めて、スタッフ全員が未経験の中で、すり合わせを細かくやりながら探っていった。それが今回の制作だったと思います。実は、いま流れているレベルの完成版を見たのは本当に納品の1週間前で。これがアニメの制作なんだな、と改めて思いました。

松浦さん:工程が多いからこそ、最終的にどんな見え方になるかを、公開ギリギリにみんなで見るような場面もあって。そこは大変でしたけれど、だからこそチーム全員で一緒につくり上げた、という実感があります。

笑顔で話す松浦さん

見ても気づかないくらい自然なところに、いちばん手がかかっているんだね。何度も見たくなるのは、そのせいかも。

手を振るモグラ

「愛される未来へつなげよう。」は、どうやって生まれたのかな?

4.コーポレートスローガン「愛される未来へつなげよう。」に込めた想いと、これからの企業ブランド

CMと同じタイミングで、新しいコーポレートスローガン「愛される未来へつなげよう。」が掲げられました。最後に、この言葉に込めた想いと、これからを伺います。

——「愛される未来へつなげよう。」という言葉は、どう生まれたのでしょう?

村井さん:通信を基盤に新しい価値を重ねていく、という考え方を、やわらかくわかりやすく表現できる言葉として考えました。“愛される”って、あまり使わない言葉ですよね。“愛する未来”のほうが耳馴染みはいいけれど、そこにちょっとした違和感、「どういう意味だろう?」と考える余白を残すことで、押し付け感のないやわらかさが出るかなと。社内アンケートでも、8割ほどの社員が共感してくれました。

——たくさんの候補から、この言葉を採用した決め手は?

大石さん:“しっくりきた”という言い方が、いちばん正しいかもしれません。私たちが思い描く豊かな未来って、再開発された都会的なまちというより、今の暮らしの延長線上で、見た目は変わらないけれど生活がすごく便利になっている世界観なんです。それを一言で表すと何だろうと思っていたとき、「愛される未来」が出てきて、そうだよなと。あえて“愛される”という言葉を使うところに、新しさも感じました。

塚本さん:このコピーが出たとき、僕も“愛”という言葉がすごくいいなと思いました。ほかにも候補はたくさんあったのですが、無難にまとまるものが多くて。「愛される未来」はクリエイティブとしてのジャンプがあって、アニメの温かい世界観ともマッチしそうだと、出てきた瞬間に新鮮さを感じました。

——このコーポレートスローガンを、どう受け止めてもらいたいですか?

村井さん:NTT西日本がいろいろな事業を通して、愛される未来を実現していこうとしていると受け止めてもらえたら。完成形をめざすというよりは、常により良いものに向かって進んでいる道中、という姿勢として伝わればと思っています。

大石さん:このコーポレートスローガン、実は主語がないんです。「愛される未来へつなげよう。」としか書いていない。だから、受け手の数だけ愛される未来があると思っていて。企業が愛される未来を“つくる”というのは、少し傲慢な言い方かもしれない。私たちにできるのは、その一部分をつくること。地域や社会のみなさんと一緒に未来をつくり、つなげていく。NTT西日本がいつもそこに、そっと寄り添っていると伝わってくれたら、とても嬉しいですね。

笑う塚本さん

——CM公開後、社内外からはどんな反応がありましたか?

村井さん:優しい雰囲気、爽やかな印象、という声をいただきました。社内からは「今までにない斬新な感覚」「思い切ったね」という声も。最初は「どこの会社のCMかわからなかった」という反応もあったのですが、これは実は、冒頭に企業ロゴを入れていない仕掛けによるものなんです。EVバスのナンバープレートが「電信電話記念日」にちなんだ数字になっているのですが、説明する前から気づいてくれた社員もいて。「小さな発見がいっぱいあるから、何度も見たくなる」と言ってもらえました。
※東京-横浜間で公衆電話線の架設工事が始まった日のことで、NTT西日本グループ社員にはおなじみの記念日

塚本さん:そうですね、それはある程度狙っていた部分でもあります。30秒で、すべてを完璧に伝えきるのはやっぱり難しいんですよね。だからこそ、何回か見てようやくわかるくらいでいい、という話は、大石さんたちとも制作の段階からしていました。一度では気づかなかったことが、見るたびに少しずつわかっていく。見れば見るほど理解が深まっていく。そういうCMになれるといいな、と思っていました。

——最後に。今後、どのように企業ブランドを育てていきたいですか?

大石さん:ブランドというのは、企業とお客さまとの約束だと思っています。良い関係を積み重ねていくことが、ブランドを形作っていく。これまでNTT西日本が積み上げてきた信頼や安心・安全というブランドは、しっかり大事にしたい。そのうえで、社外と同じくらい、社員に向けたブランディングが大事だと思っています。社員が一番の広告塔であり、第一のファンであるはず。社内サイトにCM特設ページをつくったり、CMの裏話を記事にして届けたり、社員一人ひとりがこのCMとコーポレートスローガンに愛着を持てるような取り組みを重ねています。社員が「このCMが好きだ」「このコーポレートスローガンがいいね」と思ってくれること。その共感や愛着を原点として、お客さまとの約束であるブランドを、これからも社員みんなで育んでいきたいと思っています。

信頼を受け継ぎながら、新しい一歩を踏み出す。アニメという表現を選んだ理由も、細部に込めた工夫も、「愛される未来へつなげよう。」という言葉も。つくり手それぞれの語り口は違っても、その奥には、見る人と一緒に未来をつくっていきたい、という共通の願いがありました。

談笑するNTT西日本とADKのみなさん
「受け手の数だけ、愛される未来がある」。
取材後の談笑では、主人公・いろはちゃんに 髪型を合わせてきたという松浦さんの一幕も。 つくり手の愛着がにじむ現場でした。

みんなと一緒につくっていく未来。そう考えると、なんだか自分も“愛される未来”の一部になれそうだね。何度も見たくなるあのCMを、もう一度見たくなってきたなあ。

喜ぶモグラ

Learn More さらに詳しく掘る

新CM「愛される未来へつなげよう」の本編は、NTT西日本の公式サイト/公式YouTubeでご覧いただけます。空間伝送のシーンやEVバス、ロボットなど、本文で紹介した“溶け込む技術”の数々を、ぜひ映像でも確かめてみてください。