「そうか、君はCIOになったのか
 〜熟練ITコーディネータから新任CIOへの手紙〜」(後編)

  1. NTT西日本 公共・法人HOME
  2. 最適経営のヒント
  3. 著名人が語る
  4. 「そうか、君はCIOになったのか 〜熟練ITコーディネータから新任CIOへの手紙〜」(後編)
写真:小林 勇治
IT投資を成功に導くギャップ解決策 2014年4月
小林 勇治/早稲田大学大学院講師、中小企業診断士、認定事業再生士、ITコーディネータ
IT投資には、就任間もないCIOが陥りがちな“落とし穴”として、5つのギャップが潜んでいると言う小林氏。前編に引き続き、残りの3つのギャップの要因と解決策を提示するとともに、これらのギャップを解消することが、IT投資の成功にどう影響するのかを明らかにする。

プロフィール

1968年日本NCR株式会社入社。流通システム事業部などに勤務後、1985年ITコンサルタントとして独立。イー・マネージ・コンサルティング協同組合代表理事、株式会社マネジメントコンサルタンツグループ代表取締役。流通業・サービス業のIT支援が専門。
一般社団法人中小企業診断協会相談役(前副会長)、特定非営利活動法人ITコーディネータ協会副会長、東京都経営革新優秀賞審査委員長、「日本で一番大切にしたい会社大賞」(経済産業省後援)審査委員。
2012年明治大学専門職大学院修了。「中小企業IT経営革新成功のための諸条件」で、明治大学の優秀修士論文に採択。「中小企業IT経営革新阻害要因 5つのギャップ解消のための提言」で、平成23年度「中小企業経営診断シンポジウム」中小企業庁長官賞を受賞。

主な著書

写真:主な著書

メンバー構成のバランスが重要に

CIOに就任されてからしばらくたちましたね。新しい任務にもそろそろ慣れてきた頃でしょうか。前回の手紙では「経営系とIT系のギャップ」と「各プロセス間のギャップ」について説明しました。今回は残りの3つのギャップについて説明しましょう。

■ギャップ③

【組織のトップとロウアー間の意識のギャップ課題】

組織のトップとロウアー(一般社員等)との間のギャップ要因にはどのようなものがあると思いますか。

まず、プロジェクトメンバーにトップとミドル、ロウアーのそれぞれが参加していないとギャップの要因になります。

さらに、IT経営革新推進派・反対派・中間派のバランスが取れていなければ、手戻りやギャップの要因になります。また、プロジェクトメンバーは、SI部門だけでなく、運用するBI部門、関係事業部門の人が適正に配分されないと人的アンバランスからギャップが生じます。人はどうしても自己の所属組織の最適化に傾注しがちになるからです。

この他、プロジェクトメンバーが欠席した場合、コミュニケーション不足によるギャップが生じることもよくあるので注意が必要です。

【組織間のトップとロウアー間の意識のギャップ解決策】

では、どのようにすればこれらの課題を解決できるでしょうか。

トップの経営戦略を各IT構築プロセスに落とし込んでいくとき、図表6の右端に示したように、「IT構築プロセス」と「ギャップ発生」を縦穴の掘削機のようにして、メンバーにトップ、ミドル、ロウアーを混在させ、5つのウェアの刃を一体的に回しながら、全体最適を意識して掘り下げていくといいでしょう。このやり方を「ミーコッシュ掘削方式」と私は呼んでいます。

図表6 「ミーコッシュ掘削方式」によるトップとロウアー間の意識のギャップ克服

具体的には、IT経営革新戦略策定の段階からトップ、ミドル、ロウアーのそれぞれにプロジェクトに参加してもらうことです。社長等の決定権者が加わっていれば、重要な決定変更などの際にも迅速に意思決定ができる他、経営戦略とのギャップも生じにくくなります。

メンバーに改革反対派を加えておくことも重要なポイントです。

各IT構築プロセスでは、トップ、ミドル、ロウアー間でコンセンサスが得られるまで協議することが大切です。そして、経営戦略で決めたことは、システム完成まで軸がブレないように推進するべきでしょう。

この時に活用できるツールとしては、前回の手紙で少し触れた「ミーコッシュ・マンダラ・マトリックス(MMM)メソッド」があります(「MMMメソッド」については後ほど説明します)。

PAGETOP

戦略に沿ったブレないシステム開発を

4つめは、ユーザー、ITベンダー、ITコンサルタント(ITコーディネータ)の間で生じるギャップです。それらの要因を挙げると次のようになります。

■ギャップ④

【ユーザー、ITベンダー、ITコンサルタント三者間のギャップ課題】

最も大きな要因は、三者が共通認識できる戦略ビジョンがないことです。また、前回書いた「ビジネス・情報統合(BII)モデル」のような、三者で情報や認識を共有できるツールがないために生じるギャップもあります。

【三者間のギャップ解決策】

この三者間のギャップを解決するために、私は、三者が共通認識を持てるような「戦略ビジョン」を必ず作成することにしています。

例えば、図表7のような「IT経営革新戦略ビジョン」を、経営・情報戦略策定の段階で作成し、ユーザー、ベンダー、ITコンサルタント(ITコーディネータ)間の意思統一を図っておくのです。また、プロセスが進捗して横道にそれそうになったときでも、この戦略ビジョンを確認し合い、ギャップの解消を図るようにすると、ブレないシステム開発ができるようになります。

図表7 ユーザー、ベンダー、コンサルタント間のギャップ解消のための戦略ビジョン(例)

さらに、図表7の右下にあるような「期待効果」を策定しておけば、ギャップの解消度を高めることができますし、経営者に対してもIT投資の目的と効果を明確に示して、投資を促すこともできるようになるでしょう。

PAGETOP

中小企業向けのマンダラ・マトリックス

最後のギャップ要因を見てみましょう。

■ギャップ⑤

【リファレンス間のギャップ課題】

リファレンスを活用しようとするとき、前回の手紙で図表1に示しましたが、経営戦略プロセスで「マルコム・ボルドリッジ賞」(具体的な審査基準を公開し、その基準や審査プロセスを基に自組織の経営を自己評価することを奨励)を使い、情報化企画段階で「COBIT」(ITガバナンスの成熟度を測る国際的な規格)を使うような場合、リファレンス間のギャップが生じてしまいます。

同じく、APQCモデル(業務プロセスのフレームワーク)からCOBITへ移行する場合にもリファレンス間のギャップが生じるでしょう。ISO 9000(国際的な品質管理基準)からSPA(ソフトウェア・プロセス・アセスメント)へ移行する場合においてもリファレンス間のギャップが生じる面があるといわれています。

日本経営品質賞(「マルコム・ボルドリッジ賞」に基づく経営品質向上プログラム)とPMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)間においてもギャップがありますし、PMBOKとBABOK(ビジネスアナリシス知識体系ガイド)間においてもギャップが生じて、木に竹を接ぐような結果を招いてしまう面があります。

【リファレンス間のギャップ解決策】

図表1(前回の手紙を参照)に掲げたようなリファレンスは完璧過ぎて、中小企業が活用しようとしても少し荷が重いかもしれません。そこで、リファレンス間のギャップを解消すべく、自ら図表8のようなマンダラ・マトリックスを作って、プロセスが進むにつれて階層を掘り下げていくことによってリファレンス間のギャップが生じないようにするのも1つの方法でしょう。

図表8は、私がいつも使っている例です。中心に「IT構築総合診断」があり、その周囲を「3-1 品質」から5つのウェア、「3-7 コスト」「3-8 時間(納期)」が時計回りに囲んでいます。さらに、周囲の各項目についても時計回りに「1 PLAN(進捗管理)」「2 経営系とIT系のギャップ解消」などが囲んでいます。これらの項目を順次、回して掘り下げていくのです。

紙幅の関係でレベル1しか記載できませんが、レベル2、レベル3へと階層別に掘り下げて進めることができるように工夫すれば、ギャップが生じなくなると思います。

詳しいことは http://www.e-mc.jp に記載されていますので参照してください。

図表8 リファレンスに代わる中小企業版「ミーコッシュ・マンダラ・マトリックス(MMM)メソッド」の例

情報システム部門にいる人からすると、守備範囲が広いと思われるかもしれませんが、中小企業のCIOはここまで考える必要があると私は思います。

PAGETOP

調査結果が裏付けるギャップ解消の有効性

これまで説明してきたギャップの解消は、実際のところ、IT投資の成功率にどの程度相関関係があると思いますか。

このような調査は他では見当たらないため、私の会社が2012年に行った「ギャップ解消度調査」の結果を紹介しましょう。ギャップの度合いとIT投資の成功率(品質・コスト・納期によって評価)について、失敗企業18社、成功企業18社の合計36社を調査した結果は、図表9のようになりました。

それによると、例えば、経営系とIT系との間のギャップ解消度は、失敗企業が28.4点であるのに対し、成功企業は93.2点と大変高くなっています。このように、5つのギャップの全てにおいて、IT投資の成功企業の方がギャップの解消度が高く、しかも失敗企業との差には大きな開きがあるのです。

図表9:ギャップ解消度調査結果の集計(36社)

もう一つ、IT投資の失敗・成功の判定基準である品質・コスト・納期の順守率についても見ておきましょう。

品質における満点率は、失敗企業56点に対し、成功企業は98点です。またコスト順守率におけるRFP(ベンダーへの提案依頼書)の価格オーバー率は、失敗企業158%、成功企業102%と、ここでも大きな差が付いています。

以上のような調査結果を見ても、ギャップ解消がIT投資の成功率に大きく影響することが分かるでしょう。

図表10:IT経営革新失敗・成功評価結果の集計(36社)

「ミーコッシュ」はまだ完璧なものとは言い切れませんが、確かな効果があることは間違いありません。このやり方を実践すれば、今後、失敗することはないと確信しています。「ミーコッシュ」の手法を広め、IT投資に成功する企業が増えることを願って、早稲田大学大学院で講座も開いています。

あなたがCIOとして学ぶべきことは、まだまだたくさんあることでしょう。まずは、IT投資の成否に関わるこの5つのギャップについて理解し、CIOとして着実な一歩を踏み出してくれることを期待しています。

PAGETOP

本ホームページに掲載されている会社名、商品名は一般にメーカー各社の登録商標または商標です。
本ホームページの無断転載、引用はお断りいたします。
Copyright(c)NTT西日本 ビジネス営業本部 企画部

PAGETOP

審査 16-2826-1

Copyright(C) 1999-2017 西日本電信電話株式会社
バックナンバー RSS