魅力的な上司になるために

写真:鴻上 尚史
「三つの輪の言葉」を使い分ける 2007年2月
鴻上 尚史/劇作家 演出家
演出家として20年以上にわたり、多くの役者たちの魅力を引き出してきた鴻上尚史氏。服装や表情に気を配れば自分の魅力を引き出せるのと同様、自分の「言葉」にも気を配ることで、もっと素敵で魅力的な人物になれるという。

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プロフィール

1958年愛媛県生まれ。早稲田大学法学部卒業。在学中の81年劇団「第三舞台」を旗揚げ。
87年『朝日のような夕日をつれて’87』で紀伊国屋演劇賞団体賞を受賞。94年『スナフキンの手紙』で第39回岸田国士戯曲賞受賞。舞台のほか、ラジオ・テレビの司会、映画の監督・脚本など幅広く活躍。2月末から新作『僕たちの好きだった革命』が上演される。

主な著書

写真:主な著書

「三つの輪の言葉」を使い分ければコミュニケーションがうまくいく

―鴻上さんの著書にある「三つの輪の言葉」という考え方は、ビジネスシーンにおいても活用できるコミュニケーション理論だと思います。その「三つの輪の言葉」について、改めて簡単に教えてください。

「三つの輪」というのは演劇界の用語です。あなたが一つのことに集中して、周りに関心がない状態、これを「第一の輪」といいます。舞台の上から直径1mぐらいのピンスポットが当たっていて、あなたの周りは真っ暗なイメージです。「第二の輪」は、あなたの関心・集中が相手に向かっている状態。そして、相手が複数いる状態を「第三の輪」といいます。

この「三つの輪」には、それぞれ対応する言葉があると僕は考えています。「第一の輪」に対応する言葉は「自分に話す言葉」、つまり「独り言」です。「第二の輪」に対応する言葉は「相手と話す言葉」。「第三の輪」に対応する言葉は「みんなと話す言葉」になります。(下表参照)

―「三つの輪の言葉」をビジネスの現場で生かすにはどうすればよいでしょうか。

まず、自分が今いるのがどの輪の状況なのかを把握することです。次に、状況に合わせて最も有効な輪の言葉を選びます。そして、話している間は、自分が今しゃべっている言葉がどの輪の言葉なのかを常に意識しておくことが大切です。

僕は、コーチングやファシリテーションをテーマにしたセミナーなどの講師に招かれることがあるのですが、そこで「三つの輪の言葉」の話をすると、皆さんとても高い関心を示されます。「いつも社員に話し掛けているのに反応が今一つだったのは、『第三の輪』の言葉で話し掛けていたからなのか」といった反応が多いですね。

管理職の立場になると、自分の話す言葉が「第三の輪」の言葉になりがちで、例えば部下と1対1で話しているのに、みんなと話す言葉でしゃべってしまうということがあります。「第三の輪」の言葉は、うまく使わないとコミュニケーションしている実感が湧かず、会話のキャッチボールをしているという感覚が生まれないのです。

逆に、新入社員などの若い人たちは、1対1でも「第一の輪」の言葉で話しがちです。この言葉は、本人は言ったつもり―例えば報告して仕事を果たしたつもりでも、言われた側は“言われたつもり”にはなりにくく、トラブルの原因にもなります。

相手ときちんとコミュニケーションを取りたいときは「第二の輪」の言葉で話すべきです。

三つの輪の言葉

●「三つの輪の言葉」をうまく使い分けて聴衆を惹き付ける話し方の例
【3学期始業式での校長先生のあいさつ】

「皆さん、冬休みはどうでしたか? 楽しかったですか?」※A
「(突然、一番前にいる生徒に向かって)君はどうしてた?……そうか。おもちをいっぱい食べたのか。先生も子どものころはたくさん食べたぞ」※B
「……うまかったなあ。焼いたり、雑煮に入れたり。食べ過ぎておなかを壊したこともあったっけなあ……」※C
「みんなもおもちを食べ過ぎたりしませんでしたか?」※A

※A「第三の輪」の言葉 ※B「第二の輪」の言葉 ※C「第一の輪」の言葉

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魅力的なリーダーの真の役割

―魅力的な上司やリーダーになるための自己演出法のようなものはあるでしょうか。

魅力的なリーダーというと、つい「人間的な器が大きい」といったところまで飛躍しがちですが、それは想像力のない安っぽいドラマの中の話であり、真のリーダーに必要なのは、それぞれの部下が何を考え、何を求めているか、また顧客は何を求めているか、といった情報の流通を円滑にすることなのです。

それなのに、誰も思い付かないような優れたアイデアや指示を出し続ける者がリーダーなんだといった思い込みに多くの人がとらわれています。しかし、そんな神様のような人はいませんし、実際、一人で考えても必ず限界がありますから。

大事なことは、情報を共有しやすい雰囲気を作ってあげて、みんながそれぞれ何を思っているのかをしっかり聞くこと。それがリーダーにとって最も重要な仕事なのです。

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人生における「三つの輪」のバランスが人間的魅力を形づくる

―相手が意見を言いやすい雰囲気をつくる際にも「三つの輪の言葉」が生きてくるわけですね。

そうです。よく、社員のやる気を引き出すといった言い方がされますが、結局は、社員が思っていることをどれだけ言いやすくしてあげるかということです。「第二の輪」の言葉でのレスポンスがポイントとなります。

「三つの輪」に関して、マイクロソフト日本法人の初代社長を務めた古川享さんが面白いことを言っていました。「時間とお金に関しても『三つの輪』があると思う」と。趣味などに費やす自分だけの時間、妻や子どもなどと二人きりで過ごす時間、仕事や社会貢献など多くの人と共有する時間。お金も然りで、自分のために使うお金、妻や子ども、あるいは一人の部下などのために使うお金、寄付のようにみんなのために使うお金。この三つのバランスが大事なのではないか、と。

翻って考えると、例えば、この人は誰かとの「第二の輪」の時間を大切にしていて、今、僕に向かって「第二の輪」の言葉で話している、と感じれば、じゃあ僕の問題も本音で話そうかな、というように信頼関係が生まれやすくなります。逆に、この人は「第二の輪」の時間がない人だと思われると、話し合ってもしょうがない、という気持ちになってしまいます。

言葉はもちろん、時間やお金に関しても「三つの輪」のバランスを取るように努力していくことで、その人の人間的な魅力も増していくのではないでしょうか。

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