明確な目標を設定し、そこから逆算して成功のシナリオを書き、情熱を持って突き進む

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写真:柳本 晶一
仲良し集団ではなく 「闘う集団」を育てる 2005年12月
柳本 晶一/全日本女子バレーボールチーム 監督
五輪で2度優勝し“東洋の魔女”と呼ばれた全日本女子バレーボールチームは、ロス五輪(1984年)の銅メダル以降、低迷を続け、シドニー(2000年)では予選落ち、2002年の世界選手権では史上最悪の13位に終わっていた。そんな“どん底”の状態からチームをよみがえらせ、就任後わずか1年3カ月でアテネ五輪世界最終予選を1位で通過し、世界5位にまで引き上げた柳本監督に、“柳本マジック”とも称されるマネジメント手法や指導者論などについて聞いた。

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プロフィール

1951年大阪府生まれ。70年大阪商業大学付属高校卒業、帝人三原入社。71年新日鐵へ移籍。80年から選手兼監督。82年日本リーグ優勝。85年タイ男子ナショナルチーム監督、アジアシーゲーム優勝。86年日新製鋼選手兼監督。史上最速でVリーグ入りするも廃部。97年東洋紡(女子)監督。
98年Vリーグ優勝、初の男女制覇監督に。2002年廃部。現役時代の日本代表としては74年アジア大会優勝、世界選手権3位、76年モントリオール五輪4位など。03年2月から現職。

主な著書

写真:主な著書

仲良し集団ではなく 「闘う集団」を育てる

―ナショナルチームは通常、4年スパン、8年スパンでチームづくりをするといわれる中、短期間でどのようにチームをつくり上げたのでしょうか。

柳本:目先のことにとらわれるのではなく、「金メダルを獲る」という中長期的かつ明確な目標をまず設定し、その目標から逆算して成功のシナリオを書いていきました。シナリオの第一幕の“エンディング”が「アテネ五輪出場」だったわけです。

そのエンディングへと物語を導いていくためには現在の状態に何をプラスしなければならないのか、何を取り除かなければならないのかを分析してグランドデザインを描き、限られた時間の中で、どの時期までに何をすべきかの優先順位を付けて具体的な戦略・戦術を立てました。

グランドデザインを絵に描いた餅で終わらせないために重要なのがキャスティングです。様々なしがらみを排し、実力本位で適材適所のキャスティングをして、しかしスタメンは直前まで発表せず、チームの中でポジション争いという“ケンカ”をさせました。こうして選手一人ひとりの緊張感を持続させ、闘争心をかき立て、競争させることで能力を伸ばし、チームを“仲良し集団”ではなく“闘う集団”にして、目標に向かって突き進んでいったのです。

目標は「公言」することが大切です。リーダーが保身に走ることなく、退路を断ち、何が何でもやり抜くんだという強い決意を持って臨まなければ、人はついてきません。「金を狙います。悪くても銀か銅を獲ってきます」というような逃げ道を用意した目標の公言では、結局、銅レベルの努力しかできないものです。最悪なのは、銅レベルの努力しかしていないのに、本人は金を狙いにいったと思い込み、金に届かなかったとき、「やはり自分には金の実力はなかったんだ…」と、自らの努力不足に気付かないまま挫折してしまうケースです。

金メダルを獲りたいという強固な意志があれば、結果的に3位や4位に終わったとしても、悔しさとともに「何が足りなかったのか」という反省が生まれ、そこからまたトライしていくことができるのです。

―目標が明確であれば、簡単に挫折してしまうことなく、失敗してもそれをバネにして成長していけるわけですね。

柳本:そうです。だから目標設定が重要なのです。全日本の場合は、日本を代表して世界と戦うチームですから最終目標は金メダルしかあり得ません。その絶対にやり遂げるべき大きな目標に向かってチームが一丸となれば、そこに情熱が芽生えてきます。熱くなれば闘志が燃えてモチベーションも上がります。そうしたムードを醸成し、選手を鼓舞するためにも、高い目標を掲げて公言するべきなのです。

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指導者は「現象の指摘」ではなく 「原因の指摘」「対策の明示」をすべき

―指導者の果たすべき役割についてはどのようにお考えですか。

柳本:実際にプレーをするのは選手であり、主役はあくまでも選手です。その選手の能力を最大限に引き出し、可能性を広げてやるのが指導者の役割です。

例えば…。ちょっとピースサインをしてもらえますか。そして中指と人差し指の間を限界まで広げてみてください。もうこれ以上広がらないと思ってますよね。ところが、あなたの指の間に、こうして私が手を入れて内側から開けば…。ほら、まだまだ広がるじゃないですか。

こんなふうに「こうすればもっと広がるんだ」という方法を教える、あるいは選手自身に気付かせることが指導者の仕事なのです。

ミスが起きたときの対処の仕方も重要です。ミスには、目に見えるミスと見えないミスがあります。例えばボールがアウトになったとか、ネットタッチとか、そんなミスに対して「その1本のミスが命取りになるんだ」と叱っても無意味です。そんなことは本人が分かっています。

一方、例えば、レシーブが10センチほどズレたとします。そのボールをつなぐ選手は無意識のうちにズレを修正してプレーするので、表面上は何も起こりません。しかし、そのズレはミスなのです。数字には出ない、潜在化したミス。これをつぶしていかなければならないのですが、単に「ズレてるやないか!」と現象だけをとらえるようでは指導者とはいえません。なぜズレてしまうのか。その原因と対策を示してやるのが真の指導者です。それには普段から選手のことをしっかりと見て、わずかな変化さえも見逃さないようにしておく必要があります。

注意するタイミングやシチュエーションも大切ですね。あるとき竹下(佳江選手)のトスが短くなっていたことがありました。エースセッターが調子を崩している、チームの危機です。そこで次の試合では、チームに合流して日の浅い辻(知恵選手)を竹下に代えて起用し、辻のトスが短くなったときを見逃さず、みんなに聞こえるように「トスが短いやないかっ!だから大山(加奈選手)がストレートを打てず得点できないんだ」と注意しました。

竹下の場合、ほかのメンバーの前で指摘すればプライドを傷付けて逆効果になる恐れもあったため、辻を通して客観的に気付かせたのです。また「正セッターの地位は不動のもの」と竹下が慢心してしまわないように、あえてスタメンから外したという意味もあります。以降、その大会が終わるまで竹下に短いトスは一本もありませんでしたし、ベンチの辻のモチベーションも高く、チームはとてもいいムードになりました。

人のすることだから、ミスは必ず起きます。ミスが起きたときこそ人を育てるチャンスです。ミスの原因をしっかり分析し、解決策を打つ際には、そのほかの問題点までもまとめて払拭できるような方法を考えるべきです。そうした視点で取り組んだからこそ、短期間でチームをつくることができたのだと思います。

―選手との信頼関係はどのように築いたのですか。

柳本:やはり日ごろのコミュニケーションが基本ですね。例えば選手が髪を切ったり結んだりしてきたら、「おっ、髪形変えたん?」「似おうてるやん」と言えるかどうか。初めは照れくさいかもしれませんが、心で思うだけでは伝わらないのだから、言葉に出さないと。私は選手とのメールのやり取りでも絵文字を使ったりしてますよ(笑)。選手がいてこその監督であり、選手がいなくなってしまえば私はただの“おっさん”です。それは企業の経営者や管理職も同じでしょう。そう思えば自ずと選手、社員を大事にするはずです。

ただ、信頼関係を築くことは大切ですが、信用し切ってしまってはいけません。「あいつに任せておけば大丈夫」などとつい思いたくなるのですが、それではリーダーの自覚が足りません。親にたとえるなら、「うちの子に限って大丈夫」と思ってしまうのではなく、成長の段階に合わせて「肌を離しても手は放さない」「手を放しても目は離さない」「目を離しても心は離さない」というふうに、常に気を配り、いつ何が起きても対処できるよう、最悪の事態を想定して準備しておかなければなりません。

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サポーターなくしてチームなし お客様なくして企業なし

―監督の周辺の方に取材すると「スタッフだけでなく周りの人たちをも巻き込んで味方にし、すべてをプラスのエネルギーに変えてしまう」との評が聞かれます。

柳本:全日本のチームには、監督、コーチ、マネージャー、トレーナー、ドクター、アナリストなどのスタッフがいます。ただ、スタッフはそれだけではありません。例えばテレビや新聞、雑誌の記者さんたちは、私のメッセージを映像や活字にして全国に伝えてくれるわけですから、いってみれば彼らもスタッフの一員なのです。

もっというなら、全日本は日本の代表なんだから、あなたのチームでもあるんですよ。だから、かかわる人すべてに「自分のチームなんだ!」と思ってもらいたいのです。そうなれば、例えば記者さんのペンにも熱が入りますよね。すると、監督として話したことが、より熱いメッセージとして全国へ伝わり、人々の間にチーム・選手への親近感と期待感が生まれ、応援したくなるわけです。

―注目を浴びれば、選手のモチベーションも上がりますよね。

柳本:そうです。情熱が湧き、よりいいプレーができます。試合のテレビ中継が高い視聴率を取るのは、必死にボールを追いかける選手の姿に“熱いもの”を感じ、まさに筋書きのないドラマがそこにあると感じるからでしょう。「ファン意識」が広がれば、チームのムードも盛り上がります。

チームはサポーターがいなければ絶対に成り立ちません。お客様がいなければ企業が成り立たないのと同じです。だからこそ、サポーターが、ひいては選手が盛り上がれるようなムーブメントを巻き起こすのも、私の重要な役目だと思うのです。こうした視点は企業経営にも必要なのではないでしょうか。

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