企業生命を守りたければ“危機管理のエキスパート”を早期育成せよ

  1. NTT西日本 公共・法人HOME
  2. 最適経営のヒント
  3. 著名人が語る
  4. 企業生命を守りたければ“危機管理のエキスパート”を早期育成せよ
写真:佐々 淳行
コンプライアンスの本質は“法令遵守”ではなく“組織防衛”だ 2005年9月
佐々 淳行/初代内閣安全保障 室長
「東大安田講堂事件」や「連合赤軍浅間山荘事件」で陣頭指揮を執るなど、常に最前線で危機と対峙してきた佐々淳行氏。警察庁・警視庁時代の豊富な経験を生かし、“危機管理”のワードメーカーとして早くから日本社会に警鐘を鳴らし続けてきた同氏に、「様々な危機に立ち向かうために企業は今何をすべきか」を聞いた。

PDFダウンロード

プロフィール

1930年東京生まれ。東京大学法学部を卒業後、1954年に国家地方警察本部(現警察庁)に入庁。
「東大安田講堂事件」や「連合赤軍浅間山荘事件」などで警備幕僚長として陣頭指揮を執り、1986年には初代内閣安全保障室長に就任。
退官後は、テレビ出演や文筆活動などで活躍する。主な著書は『東大落城』『連合赤軍「あさま山荘」事件』『完本・危機管理のノウハウ』『インテリジェンス・アイ―危機管理最前線―』(以上、文芸春秋)など。2000年に第48回菊池寛賞を受賞。

主な著書

写真:主な著書

コンプライアンスの本質は“法令遵守”ではなく“組織防衛”だ

―佐々さんと言えば、60年代にアメリカで生まれた「クライシス・マネジメント」の考え方を「危機管理」と訳し、日本に広めたことで有名ですが、当時と今では我々を取りまく“危機”にどのような違いがあるのでしょうか。

佐々:「クライシス・マネジメント」という言葉が生まれた当時は東西冷戦の時代で、当時の危機とは「戦争」と「革命」でした。国家間紛争や反逆運動が起こらないように、外交の強化や法の整備、治安強化を図ることが最大の危機管理だったわけです。しかし、冷戦が終わりを告げるとともに、私たちは「戦争」と「革命」に代わる新たな危機にさらされるようになりました。

私はこれを“アルファベットの危機”と呼んでいます。Aは「アトミック(原子力)」で、核の拡散や原子力発電所の事故などの危機。Bは「バイオロジー(生物)」で、鳥インフルエンザや狂牛病(牛海綿状脳症:BSE)、生物兵器などの危機。ほかにも、Cは「ケミストリー(化学)」「カルト」「コンピュータ」、Dは「ディザスター(災害)」、Eは「エコノミー(経済)」、Fは「ファイナンス(金融)」など、現代を生きる私たちは様々な危機に取り囲まれています。

―その中でも、企業に脅威を与える新たな危機とは何でしょうか。

佐々:21世紀になってから生まれた新たな企業の危機が「コンプライアンス」です。

そもそもコンプライアンス(Compliance)とは、コンプレイン(Complain:苦情・不平)に対してコンプライ(Comply:対応)するという意味であり、顧客から寄せられる不平や不満、または社員からの内部告発などに対応し、企業の損害を最小限に抑える活動のこと。最近、新聞や雑誌などで「コンプライアンス=法令遵守」と訳されているのをよく見かけますが、あれはとんでもない間違いです。

今年の初め、ライブドアによる買収騒動がありましたが、フジテレビやニッポン放送は何も法に背いていないのにもかかわらず、企業生命を脅かされる危機に陥りましたよね。法令を守っていれば企業が安全かと言えば、答えはノーです。今企業にとって最も大切なのは、リコール騒動など、法令を遵守しているだけでは止まらないスキャンダルを監督し、組織が被るであろう損害を小さくすること。コンプライアンスの本質とは法令遵守ではなく“組織防衛”であり、今、企業にはそれを遂行する“エキスパート”が必要なのです。

損害賠償訴訟が盛んなアメリカでは、経営者の間でコンプライアンスの重要性が深く認識されており、多くの企業には「コンプライアンスオフィサー」と呼ばれる危機管理のエキスパートが配置されています。しかし、日本にはそのエキスパートがいない。危機管理の観点から考えると、日本の企業は世界に比べて非常に遅れていると言えるでしょう。

PAGETOP

若いころから苦情処理などを担当させ危機に強い人材を育成せよ

―これまで日本の企業では、なぜ危機管理のエキスパートが育たなかったのでしょうか。

佐々:苦情処理や内部告発への対応というのは企業生命にかかわる問題なので、本来は、最も能力が高い人間が担当すべき重要な仕事です。そのため、アメリカではコンプライアンスオフィサーと言えばエリートコースで、将来的に役員クラスになる人材として大切にされています。しかし、日本企業では逆に、キャリア人材は傷付けないように苦情処理などの仕事をやらせず、大切に扱ってきました。これが、日本でコンプライアンスオフィサーが育っていないそもそもの原因です。

最近、企業が不祥事を起こして記者会見を行う様子をテレビでよく見かけますが、きちんと説明や対応ができている幹部社員はほとんどいませんよね。彼らは、苦情処理も経験したことがなく、傷付かずに育てられたわけですから当然なんです。しかし、コンプライアンスの危機は、いつ企業に降りかかってくるか分かりません。また、来年施行が予定されている「公益通報者保護法」により、今後、企業における内部告発はますます増えてきます。そのような状況の中で、どのようにして組織を守っていくのか−。今、企業に求められているのは、非常時に強いコンプライアンスオフィサーを早期に育成すること、そして、将来的にその人材の中からきちんとした記者会見を行うことができるクライシスマネージャーを育てていくことなのです。

―日本の企業は、まずコンプライアンスオフィサーを育成する必要があると思いますが、そのためにはまず何をすれば良いのでしょうか。

佐々:まずは、入社10年目ぐらいの社員の中から各部門の最優秀人材を招集し、一定期間「総務部コンプライアンス課」や「秘書室長直轄」といった部門で、苦情処理やマスコミ対策、総会屋対策などの業務を経験させることです。当然、人には適性というものがありますから、しばらくやらせてみて向いていない人は元の部署に戻し、向いている人だけを根気強く養成していけばいいでしょう。本物のコンプライアンスオフィサーを養成するには、1〜2年ではなく、10〜20年は業務を担当させる必要がありますが、大切なことは、その間に同列同級の社員が昇進したら、同じようにポストと報酬を与えてやることです。これまで多くの日本企業では、苦情処理などを行う人材に権限も名誉も与えていませんでしたが、今後は、もっと大切な人材として待遇することを強くお勧めします。

―コンプライアンスオフィサーに向いている人材とは、具体的にどのような能力を持っている人材なのでしょうか。

佐々: コンプライアンスオフィサーになるために一番必要なのは、四文字熟語で言えば「逆命利君」、つまり、企業のトップにノーと言える勇気です。

また、逆にトップは悪い報告を聞く勇気を持たなければいけません。良い話だけを聞きたがったり、悪い情報を報告してくれた部下を責めたりすれば、それ以降だれも報告をしなくなり、事態が発覚するまで何も気付かない危機管理の甘い組織になります。だからこそ、悪い情報を報告してくれる人材を大切にしなくてはいけないのです。

その昔、5世紀に70万の騎馬軍団を率いてユーラシア大陸を席巻したフン族のアッティラ大王という人物がいました。アッティラ大王の言行は書物としてまとめられ、今でもリーダーシップの手本とされていますが、彼は武将たちに対してこう言っていたそうです。「悪い報告をした部下を誉めよ。悪い報告をしなかった部下を罰せよ」と。悪い情報を粉飾して上に報告するのは罪、そのまま上に報告するのが忠誠心。まさに、これこそがコンプライアンスの心得なんです。

PAGETOP

有事にはトップダウンで危機対応を遂行させることができるリーダーが必要だ

―企業のトップは危機に素早く対応するために、日ごろから悪い情報を入手できる関係を築いていおかなければいけないのですね。

佐々:そのとおりです。危機が降りかかった時、企業のトップは限られた時間で最善の策を考えなくてはいけません。従来は、周りと相談して満場一致を得るタイプのリーダーで良かったのですが、危機にあふれた今の時代は、全責任を自分で負う覚悟を持ち、トップダウンで素早く部下に遂行させることができるリーダーが求められています。

その理想的なリーダーシップを発揮しているのが、小泉純一郎首相と石原慎太郎東京都知事です。批判を浴びつつも、彼らがいまだに国民や都民から高く支持されているのは、強い意志と指揮能力を兼ね備えたリーダーだからでしょう。

リーダーにもいろいろなタイプの人間がいますが、「私どもといたしましては…」と集合名詞に隠れる人や、「こうしていきたい」と願望だけで話す人が非常に多いんですね。しかし、小泉首相と石原都知事は違う。「私は今からこうする」と、“第一人称”“単数”“現在形”で物事を言います。平時には自己主張が強いとかワンマンと言われて嫌われるかもしれませんが、危機に立ち向かっていくためには、自ら責任を負う覚悟を持ち「I(私は)」というスタンスで引っ張っていけるリーダーが必要なんです。

部下から悪い報告を受けたときには、「お前(you)が悪い」ではなく「私たち(we)が悪かったよな」と言い、いざ対応をする時には先頭に立って「私は(I)こうするからこれを遂行してくれ」と部下に指示をする。この使い分けができる人が、危機管理に強いリーダーになれる人だと言えるでしょう。日本の経営者の中で、こうした能力を身につけたリーダーが出てくることを心から期待しています。

PAGETOP
PDFダウンロード

本内容はPDF形式でもご覧いただけます。上記「PDFダウンロード」ボタンよりファイルをダウンロードの上ご覧ください。

Adobe(R) Readerをお持ちでない方は、左のバナーをクリックしてダウンロードしてください。

※お客様がご利用しているOS及びアドビリーダーのバージョンにより、レイアウトが崩れるなどの事象が発生する場合があります。

本ホームページに掲載されている会社名、商品名は一般にメーカー各社の登録商標または商標です。
本ホームページの無断転載、引用はお断りいたします。

PAGETOP

審査 16-2826-1

Copyright(C) 1999-2017 西日本電信電話株式会社
バックナンバー RSS