prologue
2021年シーズン、「都市対抗、日本選手権で最低でもベスト8、めざすは日本一」を目標に戦ったNTT西日本であったが、夏の日本選手権では前年苦杯をなめさせられたセガサミーに惜敗。
秋の都市対抗は本大会出場最終枠(近畿地区第5代表)をなんとか勝ち取り、初戦は小山市代表のエイジェック(初出場チーム)に8回まで無得点に抑えられ、最終回になんとか逆転サヨナラ勝利というギリギリの戦いで辛くも突破。2回戦は4点リードを守り切れず、最終回に逆転される衝撃の敗戦・・・という非常に悔しいシーズンとなった。
昨シーズンを語る上で避けて通れないのが昨年の最終戦である都市対抗2回戦(JR東日本東北戦)4点リードで迎えた最終回、三塁側スタンドの誰もが勝利を疑わなかった場面。ヒットとフォアボールが絡んで4失点、最後は犠牲フライで逆転サヨナラ負けの衝撃の展開である。
2度目のキャンプインを迎えた吉川投手があの場面を振り返る。「もちろん、ブルペンで準備はしていました。ただ、4点差で吉元さんが登板した訳ですから何かのアクシデントが無い限り、僕の出番は無いなと思っていましたが、満塁の場面で急遽マウンドに上がる事になりました。」これまでの野球人生では経験した事のない場面で、予想外の緊張とプレッシャーが存在したのであろう。夏の日本選手権(ほっともっとフィールド神戸)、2回途中降板となった雨の先発登板と東京ドームでの逆転サヨナラ負けのリリーフ登板。昨シーズンはまさに即戦力として大事な試合に起用されて来た訳だが、「本当に悔しさしか残っていない。」と言う。
ヒットとフォアボールで2失点、さらにランナー3人を残したまま1アウトも取れずにルーキーにマウンドを託す事になってしまった守護神・吉元投手は「ゴメン・・・」と吉川投手にボールを渡し、無念のイニング途中での降板となった。昨シーズンはオープン戦や練習試合では満足のいく投球が出来ていたそうだが、なぜか公式戦は全く調子が上がらなかったとの事だ。元々、勝利したゲームや活躍したゲームの事はすぐに忘れてしまうが、自分がミスしたゲーム、悔しい敗戦だけはいつまでも強く記憶に残っているという性格の守護神は一番印象に残っているゲームとして「あと1球で勝利」という場面で逆転スリーランを被弾して敗戦した“2017年都市対抗初戦のJR西日本戦”を挙げていたのだが、このJR東日本東北戦も確実に脳裏に刻まれている事であろう。
復活を遂げたいNTT西日本は部員8名が引退する形で首脳陣を一新、主将も交代となり、新たな地で新章がスタートした。
舞台は宮崎県日向市。11年ぶりの宮崎。初めての日向でのキャンプとなる。
和歌山県田辺市のキャンプとは打って変わり、朝の集合時からブルゾンを着用する選手は皆無で第2クール後半ともなると皆、真っ黒に日焼けしていた。
恒例の宿舎からスタジアムまでのランニングも吉元投手からすれば「4kmちょっとの平坦な直線なので、行きは気持ちのいいウォーミングアップ、帰りはクールダウンみたいな感じですよ。昨年までのアップダウンの激しい田辺の山道8kmに比べたら天と地ほどの差です。」との事で、気持ちを新たにコンディションを上げていくには最適な環境であった様だ。
Structure in 2022
河本監督が4年ぶりにチームに戻ってきた。また、オリンピックの影響で主要大会の春秋逆転現象がなくなり、今シーズンの公式戦もやっと通常のスケジュールに戻る。春のJABA大会~5月下旬からの都市対抗予選~7月の本大会~10月末からの日本選手権といった流れである。自身も経験して来たシーズンの中でそれぞれのポイントにピークを持っていく調整を図っていくのだが、監督の描くチームの理想形は“勝ち切るチーム”である。ポイントとなるのは終盤の戦い方で、そこをクリアするためには心・技・体すべてにおいてスキのないチームに鍛えていく事が使命だと捉えている。
指導者の配置に関してはバッテリーは小原コーチが担当し、北﨑ヘッドコーチがフォロー、もちろん田中コーチが入るケースもあり、打撃・内野守備は梅津コーチ、外野守備は中村兼任コーチ、走塁は北﨑ヘッドコーチ、中村兼任コーチが担当する。
北﨑ヘッドコーチは3年ぶりの復帰となる。チームに戻ってきて最初に感じたのは、「そうそう、こんな感じだったな~野球部は・・・」という懐かしさであった。ただ、当時にも増して若さと勢いが感じられ、すごく頼もしく感じたようだ。
小原コーチは7年ぶりの復帰となる。チームに戻ってきて最初に感じたのは、「個々の能力はすごく高いと感じたが、一方で技術面はまだまだ不足している選手が多いなという印象を受けました。技術面を選手と意見を交わしながら向上させていければ、必ず良い結果に結びつくと思います。」と、早くも長所と短所を見抜き、手ごたえを掴んでいた。
昨シーズンの打撃オーダーは首脳陣がポイントと捉えている1番・6番・9番にマルチに機能出来るバッターを固定して、どこからでも点が取れる打線を構築していた。投手構成に関しても先発を3名でローテーションし、6回・7回までゲームを作る形で、そこからは1回ごとにリリーフを登板させる形を取っていた。
今年はそういった形に捉われずに、監督・ヘッドコーチも「真の実力を把握しきれていない選手がほとんどなので、純粋に一からフラットに全選手のプレーを確認して、それぞれの特性に合わせた打撃オーダーや守備構成にしたい。」という事が共通見解である。なので、「吉元が先発しているとか、濵﨑がクローザーで出て来るとか全然可能性はありますよ。」と小原コーチは語る。
メンバー構成については、繰り返しになるがルーキーもベテラン・中堅も横一線の状況であり、今はまだどうなるか分からない。ルーキー4人は全員「とにかくフィジカルがスゴイ!」という印象を受けるし、2年目のメンバーは昨年、即戦力として活躍した経験が財産となって、さらに逞しくなっている。
ただ、現役時代から共に戦って来た、よく知っている(吉元、濵﨑、長田、中村ら)メンバー達は下降線をたどっているどころか、以前よりもスケールアップしていて、まだまだ先頭でチームを引っ張っているというのが、チームに戻って来てみて、一番嬉しかったと、河本監督、北﨑ヘッドコーチは同じ感想を述べた。
今シーズンは投手・捕手・内野手・外野手のポジション別にリーダーを配置する形になり、これまでの副主将ポストを廃止し、主将1名体制となった。
新主将を務めるのは酒井選手。4年目の外野手でチームの誰よりも多くのヒットを放ち、誰よりも声を出す彼が“捲土重来”をスローガンに掲げてチームの先頭に立つ。
酒井主将は昨年、新たな家族を迎え入れた。応援してくれる“小さなファン”が1人増えた事で否が応でも気合が入る。
昨シーズンを振り返ると、何より“投打がかみ合っていなかった”事が一番の反省点だと言う。また、地区予選を勝ち抜く事も決してそんなに甘いものではない事を実感し、昨シーズンラストゲームのJR東日本東北戦では“アウトを1つ取る難しさ”を痛感したという。今年は首脳陣が一新された事でチームもまさに横一線でのスタートになる。「もちろん、自分は全員の方向性を一つに、元気なチームをさらに元気にして、応援してくれる皆さんも元気にしたいです!」と熱く語ってくれた。
主将と同じく、“小さなファン”を家族に迎えたメンバーが長田選手である。
昨年はケガでキャンプは別メニューであったものの、シーズンが始まれば打撃は好調を維持、守備でもサードのポジションを颯爽とこなしていた。今シーズンはケガも無く、順調に仕上がっているそうで、「息子には父が野球選手だったという記憶を残させてあげたいので、“A-ROD”の様に長く現役を続けなきゃダメなんです!だからケガとかは絶対に注意ですよね。」と活発に練習をこなす。オープン戦では1年ぶりに守るファーストから大きな声でチームを鼓舞し、打席でも鋭いスイングで2点タイムリーツーベースを放つ姿を見ていると「41歳まで現役」というのも決して難しい事ではない様に感じられる。
もう1人、宅和投手も新たな家族のためにも一層の飛躍を誓うメンバーである。「ウチは娘なので、パパはまだまだ若くて元気じゃないとダメですね!」と笑顔で語ってくれるその背中には今期から“17番”が着けられる。昨年、“47番”に変更したばかりであったが、新背番号は昨年引退した同期の大道寺投手が着けていた番号である事が大きな理由であり、「共に戦って行く!」という熱い気持ちが感じられた。
今シーズン、新たに投手コーチに就任した小原コーチ。打診があったのは新チーム発足直前の事だった。ただ、「自分は野球でこの会社に誘ってもらった人間なので、野球で恩返し出来るのであれば、こんなに幸せな事はない。ましてや1年先輩の河本監督、同期の北﨑ヘッドコーチとの新体制での参画となれば断る理由は無い。」と二つ返事でこの話を受諾したそうだ。「今年の投手陣はエース濵﨑、守護神吉元に頼らない様な若く・たくましい布陣に仕上げたい。」との事で、常に捕手陣と会話しながら戦力を上げて行くプランだ。
新しく4人構成となり、どうしても期待してしまうのが捕手陣である。田中コーチとしては、「4人構成は決して珍しい事ではないんです。私もデータアナリストとして活動しないといけないので、ほとんどブルペンに入れないので・・・」と語る。また、コーチの現役時代には「戸柱(現DeNAベイスターズ)がマスクを被り、北﨑さんがセンターに入って、僕がDHという形で、ベンチにキャッチャーが不在だったので、OBの方に無理を言って、臨時サポートメンバーとして助けてただいた事もありました。」と話す。今シーズンもそれぞれ違う特徴を持った強力捕手陣なので、ブルペンのコントロールは大変になるかもしれない。
Exhibition game
春季キャンプ終盤、3試合目となるオープン戦。調整の仕上げ段階であるため、今シーズンめざすチームの形が攻守両面に垣間見られた。
投手は5人が登板し、野手はルーキー3人を含む13人が出場した。先発のエース・濵﨑投手が一安打を許すも無失点で初回を終えたその裏、先頭打者串畑選手がセンター前ヒットで出塁すると次打者の初球からスチールを成功させる。その後も内野ゴロの間に三塁を陥れるとランナーを警戒するあまりに自身のペースを乱してしまった相手投手のボークにより、NTT西日本に先制点が入る。チーム全体で相手にプレッシャーを与え、少ないチャンスで得点をもぎ取るという攻撃の形を初回から披露する。
エースは3回でマウンドを降り、4回からは守護神・吉元投手が登板、ノーヒットで4回・5回を抑える。その間、日下部選手がこの日2本目のヒットとルーキー徳丸選手のタイムリーで1点を追加し、2-0で5回を終了する。
6回から3番手林投手が登板し、キッチリ三者凡退に抑えると、その裏、攻撃陣が爆発し、長田選手、串畑選手のタイムリーなどで一挙4点を追加し、ゲームを支配する。4番手吉川投手がヒットとフォアボールで1点を失うものの、最後は大江投手が締めて6-1でゲームセットとなった。
TEAM | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
九州共立大学 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 |
NTT西日本 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 4 | 0 | 0 | × | 6 |
打順 | 位置 | 打者 | 1回 | 2回 | 3回 | 4回 | 5回 | 6回 | 6回2巡目 | 7回 | 8回 | 打数 | 安打 | 打点 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 8 | 串畑 | 中安 | 遊ゴロ | 三振 | 右安 | 一ゴロ | 5 | 2 | 1 | ||||
2 | 6 | 泉口 | 一ゴロ | 四球 | 中飛 | 一直 | 3 | 0 | 0 | |||||
後藤 | 三振 | 1 | 0 | 0 | ||||||||||
3 | 7 | 酒井 | 遊ゴロ | 投ゴ併 | 2 | 0 | 0 | |||||||
中村 | 四球 | 三振 | 1 | 0 | 0 | |||||||||
4 | 4 | 平良 | 三振 | 三振 | 左2 | 遊ゴロ | 4 | 1 | 0 | |||||
5 | 9 | 藤井 | 一ゴロ | 三振 | 四球 | 三振 | 3 | 0 | 0 | |||||
6 | 5 | 日下部 | 遊安 | 左2 | 遊ゴロ | 左安 | 4 | 3 | 0 | |||||
7 | D | 徳丸 | ニゴロ | 中安 | 四球 | 右飛 | 3 | 1 | 2 | |||||
8 | 3 | 長田 | 四球 | 左飛 | 左2 | 2 | 1 | 2 | ||||||
西田 | 死球 | 0 | 0 | 0 | ||||||||||
9 | 2 | 小泉 | 右飛 | 三振 | 2 | 0 | 0 | |||||||
H2 | 辻本 | 四球 | 三振 | 1 | 0 | 0 | ||||||||
計 | 31 | 8 | 5 |
※泉口選手(青山学院大学出身)、後藤選手(亜細亜大学出身)、徳丸選手(智辯学園和歌山高校出身)は新人選手
投手 | 回数 | 打者 | 投球数 | 安打 | 本塁打 | 三振 | 四死球 | 失点 | 自責点 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
濵﨑 | 3 | 12 | 44 | 3 | 0 | 2 | 1 | 0 | 0 |
吉元 | 2 | 7 | 29 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 |
林 | 1+1/3 | 4 | 19 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
吉川 | 1+2/3 | 8 | 25 | 2 | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 |
大江 | 1 | 3 | 12 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 |
計 | 9 | 34 | 129 | 6 | 0 | 4 | 2 | 1 | 1 |
昨春に前十字靭帯を負傷してから11ヶ月、フルイニング出場というのが無かったので、オープン戦とはいえ、単純にうれしいです。
ケガをした瞬間は絶望感がありましたが、すぐに気持ちを切替え、「この時間を絶対に無駄にしたくない!」というスタンスでトレーニングに励みました。 結果、有意義に過ごせましたし、成果としてもかなりいい感触を掴んでいます。
アクシデントさえなければ、“キャリアハイ”を出せるのではというくらいコンディションは良好です。
三遊間の守備も(交代で)ルーキー泉口選手、後藤選手の2人と組むケースになりましたが、連携等のコミュニケーションも全く問題はなかったですし、今の所、不安は無いですね。
昨年は主将でありながら、全くチームの力になれなかったので、悔しい思いをしました。今年こそは“日本一”をめざして頑張ります!
Summary
「学生よりも声が出ている様な元気な社会人チームはなかなかない。コーチ陣が口を出さなくとも選手同士で確認し合ったり、意見をぶつけあったりするこの雰囲気は絶対に壊してはいけない。」と首脳陣全員が感じている。
「失敗を恐れずに全力でプレーして、その結果ミスするのは全然構わない。集中力が欠如して、緩み・弛みが出てしまうのが一番危険な事であり、それが勝敗に直結してしまったり、選手個人のケガにつながったりしてしまうんです。」と常に警戒しながら指導にあたっているのである。
オープン戦後の全体ミーティングが終了した後、前主将の日下部選手、同じく元主将の長田選手らが声をかけ行われた選手間ミーティングでは、非常に良いコミュニケーションが図られていた。
JABA公式大会のタイトルを獲得するのか、2大大会で昨年以上の成績を収めるのか、はたまた新戦力の台頭があるのか・・・どういった成果が見られるのか、“捲土重来”の今は期待しかない。
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