「BCP設備の出番は有事の際だけ」はもう古い!
(2015年8月19日掲載 静岡銀行さま導入事例)
なぜ、しずぎん本部タワー
「非常事態対策室」に
自治体・他業種からの視察が相次ぐのか
-
業種 地方銀行 行員数 2,992名 概要 静岡県内173、県外27、海外5の拠点を有する地方銀行。地銀大手の一角として知られ、信用格付けは邦銀の中でもトップ水準。
「お客さまとともに地域の未来を切り拓く総合金融グループ」として、「次世代経営者塾」の運営など一歩踏み込んだサポートを展開。「Breakthrough」を合言葉に、過去の成功体験に依拠しない大胆な発想を持ち、新たな可能性に挑戦することで「世界一の地方銀行」をめざしている。
概要
静岡銀行は、竣工後50年が経過し老朽化した本部棟を建て替え、新本部棟「しずぎん本部タワー」を新築。建て替えを行うにあたって大規模地震などへの対策として「非常事態対策室」を設置し、大規模災害時の被害状況把握・迅速な情報伝達などが可能になるシステムを構築した。また、平常時には本システムを活用した遠隔研修の実施や支店間での打ち合わせを行うなど、有事・平常時を問わないコミュニケーション基盤として活用。その取り組みは耳目を集め、金融機関にとどまらず、自治体や他業種など各方面からの視察が相次いでいる。
背景
銀行が社会から最も強く期待されるものとは何か? それは「信頼感」だ。“地域経済の血液”ともいわれる金融サービス。銀行には、いついかなる時もその“血流”を止めず、サービスを提供し続ける役割が求められる。信頼感があってこそ、銀行は地域経済を支える基盤として十分に機能することができるからだ。つまり、「サービスを止めない体制の強化」は、銀行が業務を遂行する上で欠かせない要素の1つであるといえる。
その期待に応えるべく、静岡銀行が新たな本部棟「しずぎん本部タワー」を建設するに当たって掲げた4つの基本コンセプトは、「①新しいワークスタイルの確立」「②従業員のチームワークとコミュニケーションの活性化」「③業務継続体制の強化」「④地域社会との共生」だ。
-
このコンセプトについて、経営管理部 総務管財担当部長で新本部棟建築プロジェクトチームの統括責任者である中村泰昌氏は、「支店に対するサポート機能の強化はもちろん、顧客ニーズに応じたソリューションや商品の提供をし続けるためには、従来の仕事のやり方に捉われない新たなプロセスが求められます。新本部棟の建設にあたり、新たなワークスタイルや行員の組織横断的なコミュニケーションの円滑化・活性化に寄与する仕組みを盛り込みたいと考えていました」と語る。
また、業務継続体制(BCP)の強化については、「新本部棟の建設に当たり、いつ発生してもおかしくないといわれている東海地震などの大規模災害をはじめ、システム障害などあらゆるリスクに対応できる『非常事態対策室』の整備が必要だと考えていました。金融インフラとしての業務継続体制の強化や新本部棟が地域の防災拠点として機能を果たすことは、地域との共生にもつながります」と語る中村氏。
業務継続体制の検討に大きなインパクトを与えたのが、2011年3月11日に発生した東日本大震災だ。震災から3カ月後の2011年6月に全国地方銀行協会会長に就任した中西頭取は、被災地の地方銀行や自治体を訪問し、どのような困難があり、どのように対応をしたのかをヒアリング。その中で強く印象に残ったのが、東邦銀行(本部:福島市)の取り組みだった。
同行では、他の通信手段が途絶する中、専用回線のテレビ会議システムを有効に活用し、行員の安否や店舗状況を確認。また、全営業店をテレビ会議で常時接続することで、営業店からの各種照会に迅速に対応した。さらに、1日3回の全店打ち合わせを通じて情報の共有化、業務対応の徹底を図ったという。
この教訓を参考に、静岡銀行は、有事の際に的確な情報の早期把握、迅速な指示徹底が可能な「非常事態対策室」の持つべき機能について、具体的な検討を進めていく。
-
加えて、新本部棟建築プロジェクトチーム リーダーの寺田健司氏は「大きな災害などはそうそう起こるものではないため、平常時でも設備を有効活用できることが重要でした」と語る。「例えば、お客さまから寄せられる多様な相談やご要望に的確かつ迅速に応えるために、テレビ会議システムを通じて本部の専担部署から支店の営業サポートを実施できるような体制整備にもつなげたいと考えていました」(寺田氏)
静岡銀行は、このような要望を織り込んだ企画書を「しずぎん本部タワー」の設計会社と共にまとめ、NTT西日本を含む複数のSIベンダーに提示し、提案を依頼した。
NTT西日本の提案
NTT西日本は、静岡県をはじめとした各地の自治体の防災訓練に参加し、自衛隊や警察、消防などの防災関係機関とも情報連携を図るなど、ライフライン企業として通信サービスを守るためのBCP対策に取り組んでいる。これまで培った知見も十分に生かした上で、静岡銀行が掲げる4つのコンセプトを実現するために、以下のICTで災害に備えるシステムの提案を行った。
「非常事態対策室 映像音声システム」
非常事態対策室の中枢となるシステム。最大27画面表示(9面×3)を用いた、177の営業拠点のテレビ会議映像、5,400台の監視カメラの映像やテレビ放送、インターネットなどのメディア情報を選択し、切り替え表示することが可能。有事の際に情報の的確な収集、各拠点への指示徹底ができる。
「テレビ会議システム」
有事の際には非常事態対策室と接続し、情報の共有と業務対応の徹底に活用。平常時は本部と拠点を結んだ遠隔研修会の実施や、拠点と拠点をつないだテレビ会議による営業会議などが実施可能。
「店舗防犯映像ネットワーク」
店舗に備え付けてある防犯用の監視カメラを全てネットワークで結び、非常事態対策室と接続。駐車場での事故映像や、災害発生時の店内・店外の被害状況の迅速な把握が本部で可能。
「ユニファイドコミュニケーションシステム」
ワークスタイルの変革をサポートするツールとして、行員がどの席で仕事をしていても自分にかかってきた電話をすぐに受けられるように、IDでログインすれば目の前の電話機が自分の内線電話機として利用可能な電話システム。
NTT西日本の提案は、単なるシステムの提案にとどまらない。例えば「非常事態対策室 映像音声システム」では、全拠点のテレビ会議の映像や、既に店舗に設置済みの監視カメラを新たにネットワーク接続するなど、複数のシステム連携、複数のメーカーにまたがる機器との接続が必要となる。そこで、個々に最適なシステムを選定しながら、全体最適を実現できるように、複数のベンダーをマネジメントする構築体制についても合わせて提案がなされた。
寺田氏はNTT西日本の提案について、こう振り返る。「事業のコンセプトを理解した上での提案はもちろん、複数のベンダーを取りまとめ、最適なシステムを提案していただいたことで、あらためて西日本最大の通信キャリアのSI事業者としての情報力や技術力の高さを感じました」
さらに「新しいワークスタイルを確立するための施策として、行員の席を固定しない『フリーアドレス制』を導入すべきかどうか判断に迷っていた際、『具体的な導入事例はありますか?』と尋ねたところ、即座に多くの事例を提供していただいたり、テレビ会議のディスプレーの方式を選定する際には、実際に商品を見ることができるように手配をしてくれたりと、私たちのリクエストに迅速かつ的確に応えてくれました。こうした迅速性の背景には、メインの担当者が不在のとき、他の方でも話が通じるように情報共有が徹底されていることなども一因としてあるようで、他のベンダーとの組織力の差を感じました」と寺田氏はNTT西日本の提案を評価する。
提案を通じた一連の対応やこれまでのネットワーク構築などの実績を踏まえ、NTT西日本にシステム工事を依頼することに決めたという。
導入効果と今後の展望
2013年3月の起工式終了後、NTT西日本と静岡銀行は月2回の定例会を開催しながら、システムの詳細検討や工事スケジュール等の確認を実施。2014年10月の建物完成後の11月からシステム工事をスタートし、翌2015年1月に工事を完了させた。
-
「しずぎん本部タワー」での業務がスタートしてから約半年が経過した現在、今回のシステム導入の効果について、中村氏は「非常事態対策室 映像音声システムを構築したことで、非常時にもリアルタイムの情報を集中把握し、迅速な状況把握と意思決定が可能になりました。これにより、地域経済を支える金融機関としての“信頼感”を高める『サービスを止めない体制の強化』を高いレベルで実現することができたと考えています。有事の際の情報収集の仕組みについては、銀行業界だけでなく、自治体や他業種からも注目を集めており、見学要望が絶えません」と笑顔で語る。
-
特に自治体からは、有事の際の情報連携で協力してほしいと相談を受けているという。「各店舗には計5,400台の監視カメラが設置されており、大規模災害発生時に屋外映像を自治体などの災害対策本部でも見ることができるようにできないかと考えています。店舗は地域住民の生活の中心となる場所に設置されていることもあり、これらの店舗で集めた被災状況などの情報の共有は非常に有意義ですし、当行としても今回のコンセプトである『地域社会との共生』につながります」と中村氏。
さらにシステムの平常時での活用について、寺田氏は「当行では人材育成を重視しており、年間200を超える研修を実施しています。静岡は西部、中部、東部とエリアが広く、本部で研修を実施する際は移動時間や拘束時間を含めると丸一日かかっていました。それが本システムの導入により時間もコストも大幅に削減され、現場の行員はお客さまへの営業活動に、より時間を割けるようになったようです。臨場感あふれるテレビ会議は集合会議と変わらないクオリティーで、使い方を覚えた営業部門が積極的に活用してくれているのが、アンケートでもよく分かりうれしいですね」と顔をほころばせる。
支店長や拠点のブロック長クラスもテレビ会議システムを使って連絡を取り合うようになっており、「日常の業務でシステムに慣れておけば、有事の際にもスムーズに運用できることが期待されます。行内で放送しているビデオニュースでも、本システムを利用した集合研修の様子を放映し、利用促進に努めています」(寺田氏)。
また、ユニファイドコミュニケーションシステムについて、寺田氏は「フリーアドレス制で座席を固定せず、座った机の電話機に自分のIDでログインすると自分の内線端末になる仕組みはプロジェクト単位での仕事に向いています」と説明する。毎日席を替えることで、従来なら接触する機会のなかった行員ともコミュニケーションが生まれ、これまでの枠を越えた気付きやアイデアのヒントなどが得られる。このように新しいワークスタイルを確立することで、より付加価値の高い成果が期待できるという。
-
さらに、「Web電話帳も使いやすいですね。話し中であることなどが先に分かるので、無駄な電話をかけることが減り、また、かかってくることも減るので、無駄な取り次ぎの削減による生産性向上も見込めます」と寺田氏。また、個人専用の袖机は無く、個人の書類保管スペースは1人あたり40cm×40cmのロッカーのみと定めることで、不必要な書類を印刷・保有しないペーパーレス化を同時に図っているとのことだ。
システムの今後について、中村氏は「1つは、県をはじめとした自治体と監視カメラ映像などの情報を相互乗り入れするための技術的サポートをNTT西日本にはお願いしたいと考えています。もう1つは、本部から営業拠点に対するサポート機能の一層の強化を図るために今回導入したシステムを活用していくにあたっての支援です。銀行業務の生産性向上につながるような提案をNTT西日本には継続的にお願いしたいと考えています」と語る。
BCPは“守り”の策としてとらえられることも多く、BCP自体が直接収益を生み出すものではないため、予算の確保が難しいとの声も聞かれる。
こうした中、本部棟の新築に合わせて、“地域経済の血流”を止めないためのBCP体制の強化に加え、ワークスタイルの変革や地域社会との共生という意欲的なチャレンジを盛り込んだ静岡銀行の取り組み。そして、それを支えたNTT西日本のシステム構築。これらは、高度成長期に建てられたビルの建て替えを検討する企業をはじめ、BCPの強化や地域との連携を考える事業者にとって大いに参考になるだろう。「しずぎん本部タワー」への視察者が相次いでいるという事実が、それを物語っている。