戦略ストーリーを創るセンス(後編)

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写真:楠木 建
センスを磨くための“筋トレ”メニュー 2014年4月
楠木 建/一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授
戦略とITの関係を、ファッションにおけるネクタイになぞらえ、先に「こういうスタイルでいきたい」という構想があった上でネクタイを選ぶという順番で考えなければ、カッコよくなれないという楠木氏。優れた戦略を創るには「スキル」よりも「センス」を磨くことが重要だと語る。

プロフィール

1964年東京都生まれ。幼少期を南アフリカ・ヨハネスブルグで過ごす。87年一橋大学商学部卒業。92年同大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学ビジネススクール(ミラノ)客員教授などを経て、2010年から現職。専門は競争戦略とイノベーション。日本語の著書に『知識とイノベーション』(共著、東洋経済新報社)、監訳書に『イノベーション5つの原則』(ダイヤモンド社)『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房)などがある。

主な著書

写真:主な著書

素敵な人の個別のアイテムでなく「カッコよさの総体」を学ぶ

── 優れた戦略を創るために、他社の戦略を学ぶことは有効なのでしょうか。

学び方によると思います。会社が行うさまざまな意思決定や行動など、一つ一つの構成要素がつながり合って戦略を構成し、競争力を生み出して、会社は勝負しているわけです。ですから、個別のアクションをバラバラに“つまみ食い”しても戦略の意味は分かりません。それぞれの要素の絡み合いを見ることがポイントです。

先ほどお話しした素敵な人のファッションの比喩(前篇参照)で言うと、「その素敵な人はこのネクタイをしているから」と、そのネクタイだけ買い求めて締めたところで同じ効果は得られないでしょう。それどころか、一貫性がない分、かえっておかしな格好になってしまうかもしれません。

ところが、「はやりのネクタイはどれか」というのは比較的容易に学べますが、カッコよさの総体というか正体はなかなか見抜けません。ですから、学び方としては、優れた戦略を持っていると自分が思う企業なり事業を、限られた数でいいのでじっくり見ることです。そして、さまざまな構成要素がどのようにつながっているのかをよく考えてみることが一番いい学び方だと思います。

── 広くなくてもよいから、深く濃く学ぶことが大切なのですね。

そうです。ただ、今、人間が接している新聞・テレビ・パソコン・スマートフォンなどの情報メディアは非常につまみ食いに向いています。そういう断片的な情報に流れるのではなく、「全体をじっくり見る意識」を持っておくことが必要です。

── ニュース的な情報だと断片的になりがちです。

個々の情報はマスメディアから断片的に得たとしても、例えば、注目している企業に関するフォルダを頭の中のどこかに設けて情報をストックしておき、「このアクションとこのディシジョンはどう絡んでいるのか」などとつなぎ合わせて考えるといいでしょう。

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スキルではどうにもならない「センス」の問題

── 優れた戦略を創るには「スキル」よりも「センス」が大切とおっしゃっていますね。

はい。スキルは分業が前提になっています。「あなたの仕事はここからここまで」という分業の単位で、その仕事を遂行するために必要な知識体系がスキルです。英語やプレゼンテーションなどのスキルの他、ITや法務、会計、ファイナンスなど、会社の部門名のようになっているものもあります。

それに対してセンスは「丸ごと」ということです。会社で「どうやって稼いでいくか」というときに戦略のストーリーを創るわけですが、それはここからここまでという分業の単位の話ではなく、丸ごとで考えなければなりません。洋服の比喩で言えば、「自分の身長からすると必要なネクタイの長さは何センチか」というのはスキルの問題であり、「全体でどんなふうにするとカッコよく見えるか」というのがセンスなのです。

つまり、担当がないのが経営者であり、センスには分業がありません。スキルではどうにもならないことがあって、その総称を僕はセンスと言っているわけです。

── 「経営はアートだ」という意見と通じるものがありますね。

全くそのとおりです。絵筆の使い方、色彩のグラデーション、遠近法など、スキルがないと絵は描けないにせよ、いくらスキルを勉強しても、それで名画が描けるわけではないのですから。

── やはり、センスを育てることはできないのでしょうか。

写真:楠木 建

できません。スキルであれば、研修、学校、教科書、指導者など、育てるための標準的な方法論があります。しかし、センスには育てるための方法論がありません。なぜ方法論がないかというと、センスは千差万別だからです。「あの人は英語ができる」というのはだいたい同じで、TOEICなどで測れますが、「あいつは商売センスがあるね」というのは人によって全然違います。

そんなことは分かっているのに、なぜみんながそこに目を向けないのかというと「人間の弱さ」があるからだと思います。つまりスキルだと「こういうふうにやればできる」という方法があり、良い方法を選択してきちんとやれば、必ず今よりできるようになります。ところが、自分のセンスでやらなければならないとなると、方法論もなく、「どうすればいいの?」と心配になり、怖くなる。それを避けるのは人間の弱さです。

「どうすればいいんですか。困っちゃいますよ」という人には、「向いてないからやめておいた方がいい」「諦めが肝心です」と言ってあげるべきです。

── 身もふたもない話になってしまいますね。

確かに「それを言っちゃおしまいよ」という話です。しかし、それでいいと思うのです。救いは、商売のセンスは全員が持っている必要はなく、100人いる会社なら2、3人が持っていれば十分だということです。世の中はとてもうまくできていて、それぞれに役割分担があります。「俺のセンスでやってみよう」という人が大枠の構想を考え、他の人は、それにピッタリのネクタイを選ぶというプロフェッショナルな仕事をすればいいのです。

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「最近10分間でも自分の頭だけで考えたことがありますか?」

── 楠木さんは「読書はセンスを磨くための筋トレ」とおっしゃっています。戦略ストーリーを構想するセンスを磨くための“筋トレ”メニューを作るとすれば、どんなものが考えられるでしょうか。

一番良いのは、とにかく「情報の遮断」だと思います。テレビもネットも一切見ず、メディアから自分を切り離すことです。そして「ゆっくりと考える時間」をつくります。僕の場合、考えるために一番必要なのは「孤独」です。余計なノイズをインプットせず、人にも意見を簡単に求めずに、「自分の頭だけで考える」のです。

写真:楠木 建

50年前に比べると、テレビやスマホなどによって、そういう状況はつくりにくくなっているので、それを意識的に行うのは、メニューとしてまず重要なことだと思います。それを最近10分間でもやったことがある人は、あまりいないのではないでしょうか。禅などという大げさなことではなく、電車の中でもいいので、とにかく自分の頭だけで考えてみることです。

── 何について考えるのが効果的でしょうか。

「この会社はなぜ儲かっているのか」ということです。競争の中で、みんなが儲けたいと思っているのに、なぜあの会社は儲からず、この会社は儲かっているのか。その答えを自分なりに考えるのです。

── 優れた経営者の自伝や評伝などを読むことも有効だとおっしゃっていますね。

それは、会社なり事業なりの丸ごと総体を見ることに通じるからです。戦略は「AをするとBになり、BがあるからCができ、CができるとDが可能になる」というような、その会社や事業に固有のストーリーです。それがつながって、最終的には利益になっていくわけです。

自分の事業について、そのつながりが分かる人でないと戦略は立てられませんし、そのレベルで他社の戦略を見ないと、自分で戦略をつくるための足しにはならないでしょう。本を通じてその経営者と対話をするように読むことが大切です。

── セブン-イレブンの鈴木敏文さんとローソンの新浪剛史さんの本を読み比べたりするのもいいトレーニングになるわけですね。

同じコンビニ業界でも、お二人の戦略は全然違うわけですが、それぞれに優れた戦略ですから。カッコいい服装にもいろいろあるのと同じですね。

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「モテるかどうか」はデートしてみないと分からない

── 組織として後継者を育てる場合には、何が大切でしょうか。

育てようとしないことです。センスは育てられるものではなく「育つ」ものですから、センスがありそうな者を見極めて、センスが育つ場をつくり、土壌を耕していくことだと思います。

本来は、経営を丸ごと経験させるのが一番なのですが、ただそれはそんなに多くの人に与えられる機会ではありません。そこで、小さな規模でもいいので、一つの事業を丸ごと動かす経験を若いうちからさせることが王道だと思います。稲盛(和夫)さんのアメーバ経営や、松下幸之助さんの事業部制も「商売丸ごと、あなたが稼いできなさい」という同様のロジックです。その擬似的な経験として、読書や自分の頭で考えるというトレーニングがあるのです。

「経営人材が育つ会社」といわれるリクルートは、入社したら「とにかく何か商売をつくって稼いでおいで」と言うそうで、「担当」という考え方が非常に薄い会社だと思います。センスが育つ土壌としては最高ではないでしょうか。

── 場を与えて、場数を踏ませることが大切なのですね。

そうです。しかしその前に、誰に場数を踏ませるか、センスのある人を見極めるのは容易ではありません。例えば、学校の先生に「クラスで算数が一番できるのは誰?」と聞いたら、成績を基に「○○君」と特定できます。ところが「一番モテるのは誰?」と聞いても答えられないでしょう。素敵に見える人も、デートしてみないと本当にモテるかどうかは分かりません。そこで、早いうちからデートを経験させることが大切になるのです。

── 4月から「センスが育つ場」として「成長戦略フォーラム」を始められるそうですね。

はい。僕たちは、優れた競争戦略を実践している企業を表彰する「ポーター賞」を10年以上続けてきました。ところが、「優れた戦略はどうすればつくれるのか」と問われれば、僕の答えは「諦めが肝心」となってしまいます。しかし、それではあまりにも不十分なので、表彰から一歩踏み込み、経営センスのある人材が「育つ」場をつくるお手伝いがしたいということなのです。

各社が個別にやるよりは、会社の外でフォーラムをつくって、ポーター賞受賞企業など戦略的に優れている企業約30社に限定し、今後の商売を担っていく人にメンバーとして参加してもらいます。そして月に1度、土曜日に集まり、自分の商売について「こうやって成長させ、利益を出していく」という戦略・構想を演説してもらうのがメインディッシュです。聴いているメンバーは「なぜそんなことをするのか?」「自分が経営者ならこうする」「私ならしない。なぜなら…」などと相互の提案や批判を通じてセンスを磨いていくのです。

写真:楠木 建

── 戦略的に優れた企業の、しかも目利きされたセンスのありそうな人たちが集まるわけですね。

はい。他にも、優れた経営者を招いて議論したり、大学院のファカルティーが論点を提起してみんなで議論したりと、いろんな仕掛けを用意しています。

僕は、外国から経営者が来て「日本のいい会社に学びたい」と言われたら、20世紀型の既存の大企業ではなく、独自性のある優れた戦略を実践している会社を見学してもらいたいと思っています。そのためにポーター賞で表彰しているわけですが、そこからもう一歩踏み込んで、「経営センスが育つ場を提供すること」を、自分の最後の仕事としてやり抜きたいと思っています。

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