戦略ストーリーを創るセンス(前編)

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写真:楠木 建
競争戦略とITとネクタイ 2014年3月
楠木 建/一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授
本格経営書として異例のベストセラーとなった『ストーリーとしての競争戦略』。「優れた戦略とは、思わず人に話したくなるような面白いストーリーだ」という楠木建氏に、なぜ競争戦略が必要なのか、そして、戦略にITを活用し、競争優位を獲得するにはどうすべきかを聞いた。

プロフィール

1964年東京都生まれ。幼少期を南アフリカ・ヨハネスブルグで過ごす。87年一橋大学商学部卒業。92年同大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学ビジネススクール(ミラノ)客員教授などを経て、2010年から現職。専門は競争戦略とイノベーション。日本語の著書に『知識とイノベーション』(共著、東洋経済新報社)、監訳書に『イノベーション5つの原則』(ダイヤモンド社)『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房)などがある。

主な著書

写真:主な著書

戦略なしでは稼げない時代

── 2010年に『ストーリーとしての競争戦略』を出版し、「優れた戦略とは、思わず人に話したくなるような面白いストーリーだ」ということを提唱されたわけですが、戦略がストーリーになっている企業は増えてきていると感じますか。

増えてきていると思います。ただ、優れた戦略がなくても、儲かる会社というのはあり得ます。まずそこから説明しましょう。

商売の最終的な目的が長期利益だとすると、その出どころは必ずしも優れた戦略だけではなく、いろんなものが絡み合って会社に長期利益をもたらしています。例えば、中国やミャンマーなど成長している経済圏に身を置いて、次々と出てくる成長の機会を捉えていれば、それほど苦労せずに儲かるのです。高度成長期はバンバン人口が増え、ドンドン橋ができ、道路ができ、線路が敷かれていく。そういう状況では、利益に対する戦略のインパクトは割と二の次で、とにかく素早くそのオポチュニティーに食らい付いていく会社が利益を出すわけです。

日本経済が成長から成熟に向かってきたここ数十年の変化は、利益の出どころが外的な環境やオポチュニティーから、その会社が自分たちで構想する戦略へと移ってきた歴史でもあります。成熟した環境ではそんなにオポチュニティーは発生しないので、戦略を持たざるを得ない状況になってきているのです。日本に限らず、成熟している国は全部同じです。ですから、きちんと稼げている会社は、必然的に明確な戦略を持っているところが多くなる。そういう時代になっているわけです。

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ネクタイは戦略的なのか

── 楠木さんは2001年に「ITのインパクトと企業戦略」という論文を書かれています。2003年には米国の『ハーバード・ビジネス・レビュー』にニコラス・G・カー氏による「もはやITに戦略的価値はない」という論文が掲載され、「ITはそもそも戦略的である」といった反論も寄せられるなど、論争が巻き起こりました。約10年を経た今、ITについてどのようにお考えでしょうか。

当時、議論の対象になっていたのはインターネットでしたが、現在では電話線のように当たり前の存在になっています。「ITは戦略的か」という話は、そもそも問題として成り立っていないと僕は思います。ITは戦略の構成要素の一つに過ぎません。

写真:楠木 建

優れた戦略は、戦略を構成する要素が全てかみ合って、全体としてゴールに向かっていくイメージが、動画のように見えてきます。全体の動きと流れが生き生きと浮かび上がってくるのです。

ファッションも同じですよね。例えばすごく素敵な人がいて、なぜ素敵なのかというと、洋服だけでなく、体型や身のこなしなど、全てがうまくかみ合ってその人の魅力になっているわけです。

ところが、「ITは戦略的か」という話は、あるネクタイを取り出して「このネクタイは良いか悪いか」と言っているようなもので、それだけではカッコよくなれないのは当然です。

確かに、ネクタイが全体に与える影響は、靴下よりも大きいでしょう。十数年前に「これからはインターネットの時代だ」といわれていた頃は、ITはものすごく目立つアウターだったかもしれません。しかし、ネクタイも靴下もアウターも構成要素に過ぎないので、あるネクタイの良し悪しを議論しても仕方がないのです。

── 一つの構成要素だけを取り上げても、戦略のストーリーは成り立たないということですね。

そうです。初めに「どういうネクタイがいいのか」と考えた時点で、経営としては失敗でしょう。先に「こういうスタイルでいきたい」という、その人の戦略のストーリーがあって、「それならネクタイはこれだ」と考える。つまり個別の要素であるITは、全体の構想に対して遅れてくるぐらいでちょうどいいのです。

「どういうネクタイがいいか」と言っている人は、「自分はこういう雰囲気のスタイルでいこう」という全体的な構想を持っていません。それは言い換えると「戦略がない」ということになります。

人はすぐに「これさえあれば」という飛び道具や必殺技を探してしまいます。なぜ飛び道具が欲しいかというと、全体についての構想がないからです。「これだ!」というネクタイを締めても、他の要素と一貫性がなければカッコよくはなれません。

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戦略にITを生かすために大切なこと

── 戦略にうまくITを活用している“戦略ストーリーの名作”はあるでしょうか。

いい戦略のストーリーがあって、その手段としてうまくITを使っている会社はたくさんあると思います。優れた戦略を自分で構想し、その実現のためにITが非常に重要な要素になり、それで競争優位を獲得することは十分あり得る話です。ポーター賞受賞企業のように、優れた戦略を実践している会社を見てみれば、自ずとITをうまく活用しているはずです。

ただ、「あの人はカッコイイね」という話はあっても、「あの人はこんなネクタイしてるね」とは言わないですよね。「ジョージ・クルーニーのネクタイはこれだ!」みたいな話をしても、あまり意味がないでしょう。

「幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある」という『アンナ・カレーニナ』の有名な書き出しがありますが、戦略はその逆だと思います。戦略がうまくいっている会社はそれぞれ千差万別で、いろんな成功パターン、いろんな成功ストーリーが多種多様にあります。ところが、失敗している会社は大体同じなのです。ですから、どういうパターンで失敗しているのかを見た方が、話が早いでしょう。

そのパターンは「先にいいネクタイを探す」というのに尽きます。ITの後で戦略が追い掛けてくる、もしくはITだけで戦略がない。ITの飛び道具で何とかなると思っている。これらが失敗パターンの典型ではないでしょうか。

── 戦略にITを活用する際のポイントは何でしょうか。

写真:楠木 建

ネクタイをいくら眺めていても、全体のスタイルはなかなか出てきません。やはり、先に全体の戦略をつくるということです。「ここをこうすれば、ここがこうなって、こうやって儲けていくんだ」という骨太な因果論理でつながっている戦略。その上で、「ここにはこんなITがあるといいな」という手段としてのITの必要性を考えるという順番がポイントです。

いわばハサミのようなもので、何を切るかによって、どんなハサミが必要かが決まるわけで、「こういう物を切りますよ」というのが決まっていないのに、最高級のハサミだけを先に買ってきて切る練習をしても仕方がないでしょう。「そもそもカッターで切った方がいいんじゃないの?」ということにもなりかねません。

ただし、そういう意味で、構成要素の単純比較には、競争戦略とは別の次元で意味があります。「この場面では、ハサミとカッターとどっちがいいのか」。あるいは「このネクタイとあのネクタイはどっちがいいのか」。例えばどちらのERPがより低コストで機能が優れているかというのは、どっちのネクタイの値段が安くて丈夫かという話ですよね。

IT部門が全体の構想を受けて、この線でネクタイを探すとしたら、どれがいいのか、どのタイミングで買うか、どこから買うか、締め方はどうするかといったことをIT戦略として検討するのは非常に重要なことだと思います。しかし、あくまでも全体の構想が先にあり、それを踏まえた上で必要なITを検討するという順番が大切なのです。

後編では、「経営に必要なセンスの磨き方」などについて聞いていきます。(2014年4月公開予定)

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