そろそろ「本当のクラウド」の話をしよう(後編)

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写真:城田 真琴
コスト削減だけではないクラウドの活用法 2011年3月
城田 真琴/野村総合研究所 情報技術本部 技術調査部 上級研究員
クラウドの本質は「規模の経済がもたらす利用料金の安さ」にあるという城田氏。しかし、コスト削減だけでなく、クラウドの特性を十二分に生かし、劇的な生産性の向上につながるような用途を考える時期に差し掛かっていると指摘する。

プロフィール

北海道大学工学部卒業後、大手メーカーのシステムコンサルティング部門を経て、2001年から現職。現在、ITアナリストとして、先端テクノロジーの動向調査、ベンダー戦略の分析、ユーザー企業のIT利用動向調査を推進。同時にそれらを基にしたITの将来予測とベンダー、ユーザー双方に対する提言を行っている。専門領域は、クラウドコンピューティング、仮想化などのITサービス、IT基盤技術。2009年から2010年5月まで総務省「スマート・クラウド研究会」技術ワーキンググループ構成員。

主な著書

写真:主な著書

クラウドの現状課題

クラウドには数多くのメリットがありますが、もちろん万能ではありません。現在指摘されている主な課題を整理するとともに、企業が利用する場合の留意点をまとめてみましょう。

(1)セキュリティー
 自社の外にデータを預けるパブリック・クラウドの場合、プロバイダーがどのようなセキュリティー対策を講じているのかが問題になります。例えば、前編で説明したとおり、クラウドは通常、複数の顧客でサーバーなどのシステム環境を共有する「マルチテナント方式」で運営されています。このため、「ほかの顧客のデータと確実に分離されているのか」「第三者からのアクセスに対してどのように保護されているのか」といった点は気になるところでしょう。極端なケースを想定すれば、競合他社のデータと隣り合わせでデータが保存されている可能性もないとはいえないからです。

ただし、最近ではプロバイダーもクラウドの利用阻害要因が「セキュリティー」にあることは、十分承知しており、セキュリティー対策に力を入れています。このため、セキュリティーに問題があるというよりは、ユーザーから見た場合、「自社のセキュリティーポリシーに準じているかどうか」がポイントになってきています。また、そもそも、セキュリティー対策に「絶対安全」はないため、専任のセキュリティー担当者がいない中小企業であれば、「クラウドプロバイダーに任せてしまう方が安全」という考え方もできるかもしれません。

(2)データの保管場所が分からない
 海外事業者が提供するパブリック・クラウドでは、データを分割して、複数の場所に保管しているため、データの所在が特定されない場合があります。データの物理的な所在を意識せずに気軽に利用できるというのがクラウドの特徴である半面、この特徴がコンプライアンス上、問題になるケースがあることは意識しておく必要があるでしょう。

(3)パフォーマンス
 品質保証がないインターネットを利用することが前提のパブリック・クラウドでは、ある程度、ネットワークの遅延を受け入れる覚悟が必要になります。このため、リアルタイム性を要求するアプリケーションや厳密なトランザクションの一貫性が求められるアプリケーションの利用は避けた方が賢明といえるでしょう。

特に、日本のユーザーが米国のデータセンターを利用するクラウドサービスにアクセスする場合、パフォーマンスが悪かったり、処理が重く感じられたりするケースがあります。このため、そのパフォーマンスが許容範囲にあるかどうか、事前に検証を行う必要があります。

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クラウドを自社のビジネスにどう生かすか

クラウドにはいくつかの課題もありますが、その利便性の高さや拡張性・柔軟性の高さは今後の企業システムを考える上で、選択肢の一つとして検討に値するものです。考えてみると、企業システムの全てが最高品質、最高レベルのセキュリティーで守られている必要はありません。もちろん、セキュリティーやコンプライアンス上、必ず社内にデータを保持しておかなければならないシステムもあるでしょう。また、先に述べたリアルタイム性が求められるアプリケーションのように、明らかにクラウド上での運用に不向きであるアプリケーションも存在することは確かです。

しかし、シーズンごとのトランザクションの変動が大きい業務や、スピード重視ですぐにビジネスを立ち上げたい場合、小さく始めて大きく育てたい新規事業など、クラウドの利用が適する場合も少なくありません。企業としては、クラウドというオプションが増えたということをまず認識する必要があります。そして、今後、新規に開発、あるいは更改時期に差し掛かるアプリケーションに関しては、「投資回収を何年スパンで考えるのか」、その場合、「IT資産を自前で開発・所有する必要があるのか」などを問い掛けながら、クラウドを選択肢の一つとして検討することが必要になるでしょう。

このように考えて見ると、クラウド時代に企業がなすべきことは、まず、自社が抱えるシステムの棚卸しを行い、必要なサービスレベルやセキュリティーレベル、掛けられるコスト、利用期間や人数などの要件を整理する「システム仕分け」ではないでしょうか。

システム仕分けを行えば、クラウドの利用に適するシステム、適さないシステムが自ずと見えてくるはずです。例えば、前編の「クラウドのメリット」の中でも紹介した期間限定で開設するキャンペーンサイトなどは、クラウドに適したシステムの典型といえるでしょう。なぜなら、限られた期間だけ必要であるため、サーバーやストレージなどをいったん購入してしまうと、キャンペーン終了後に使い道がない場合、無駄になってしまいます。また、キャンペーンという特性上、期間中はサイトに突発的にアクセスが集中する可能性が高くなるため、負荷に応じて、柔軟にサーバーを拡張したり縮小したりできることが必要です。長く利用するシステムではないため、できるだけ、低コストに構築できればさらに良いでしょう。

一方、財務データなど企業にとって機密性の高いデータを扱うため、高いセキュリティーレベルが必要で、長期間使うことを前提とした財務会計システムの場合はどうでしょうか。自社で専任の運用管理者の割り当てが可能で、十分なセキュリティー対策や障害対策を施すことができる大企業であれば、敢えてクラウドを使う必要性は低いといえるでしょう。

表:システム仕分けの例
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クラウドならではの用途の探求

昨年あたりから本格的に「クラウドをどのように自社で活用するか」といった「クラウド戦略」の策定に着手した企業が多くなってきていますが、そうした企業の多くは、ハードウェアやソフトウェア、維持管理などを含めた「コスト削減」を目的にしています。

クラウドの本質が「規模の経済」にあることを考えれば、クラウド活用の第一歩として、コスト削減を目的としてきたのは自然な流れだと思います。企業経営の立場からすれば、リーマンショック以降の景気の落ち込みもあり、コスト削減の切り札として、クラウドに期待した部分も多分にあったのでしょう。企業の方から私に寄せられた相談を見ても、「クラウドを上手に活用すれば、コスト削減につながるのではないか」という期待から、トップダウンでクラウドの導入を検討し始めた企業が多かったように思います。

しかし、クラウド活用の第一歩がコスト削減だとすると、そろそろ次の一手として、「クラウドならではの使い方」や「クラウドを使うことで劇的な生産性の向上につながるような用途」を考える時期に差し掛かってきたのではないかと思っています。

具体的には、スマートフォンやタブレット端末などのモバイルとクラウドの連携、あるいは複数のサーバーを用いた大規模データの分散並列処理などです。

まず、前者のモバイルとクラウドですが、これは非常に親和性が高い組み合わせです。既に、クラウドの導入を契機に、スマートフォンやタブレット端末を導入し、社員のワークスタイルの革新を実現しようという企業が出てきています。

例えば、中古車売買大手のガリバー・インターナショナルでは、Google Appsの全社導入に加えて、iPhone、iPadの導入も進めています。同社では、従来、外出先の営業担当者がメールをチェックするには、店舗に戻るしかありませんでした。しかし、現在ではiPhoneやiPadを使うことで、どこにいてもクラウド上のメールをチェックし、顧客サービスの向上を図るとともに、時間を有効に活用するというワークスタイルへの転換をめざしています。これと同時に、顧客先を訪問する営業担当者はiPadに中古車画像を表示し、販促活動にも役立てています。ノートPCよりも起動が早いiPadを使うことで、スムーズな提案活動が可能になったということです。

一方、後者の複数のサーバーを活用した分散並列処理の活用事例としては、日本最大の料理レシピ検索サイトである「クックパッド」が有名です。同社では、ユーザーが料理レシピの検索のために入力したキーワードの検索ログの解析にクラウドを活用していますが、解析対象としているのは1年分のログであり、そのデータ量は膨大です。このため、社内のデータベースサーバーを利用して、この処理を実行した場合、7,000時間はかかると見積もられました。しかし、クラウドを活用し、50台のサーバーを同時に立ち上げ、分散処理のフレームワークである「Hadoop(ハドゥープ)」を利用したところ、わずか30時間足らずで処理が完了したということです。このHadoopとは、簡単にいえば1台のサーバーでは時間のかかる処理を、複数のサーバーで分散して処理させることで、高速化を図ろうとするコンセプトに基づき設計されたソフトウェアです。

このように、いち早くクラウドの活用を始めた企業の中には、コスト削減に加えて、クラウドの特性を生かしたメリットを享受している企業も出てきています。日本では、クラウドというとコスト削減というメリットに目が行きがちですが、クラウドの活用で先を行く米国の場合は、コスト削減だけではなく、この分散処理のようなクラウドの特性を生かしたメリットにも注目が集まっています。

「クラウドに期待するメリット」を聞いた米国企業を対象に実施したアンケート調査結果と日本企業を対象に実施した調査結果を比較すると、「サーバーやストレージなどを運用管理する負荷軽減」「サーバーやストレージなどのハードウェアのコスト削減」が上位2位である点は変わりません。しかし、日本に比べると、米国ではややその比率は下がっています。また、日米の大きな違いとして、日本では6.4%でしかなかった「大規模なITリソースを活用した分散処理」が米国では18.1%と3倍近くも多く支持されている点が挙げられます。

図表:ユーザー企業がクラウドに期待するメリット

この分散処理は、先に説明したクックパッドのようなネット企業を中心に日本でも活用が始まりつつありますが、それ以外の一般的な企業においても、日本企業に多いとされるバッチ処理への適用が検討され始めています。劇的な生産性の向上につながる可能性が高い、このような新たなクラウドの活用法はさらなるクラウドの普及を後押しすることになるでしょう。

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最後に

このたびの東北地方太平洋沖地震で被害を受けられた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。
一日も早い復旧、復興がかないますよう、心よりお祈り申し上げます。

最後に、日本を襲ったこの未曽有の大震災の発生後にクラウドが果たした役割について、補足したいと思います。

震災発生後、クラウドの提供事業者からは、政府・政府外郭団体、地方自治体、公共交通機関や電気・ガス・水道などライフラインに関わる企業を主な対象として、アクセスが集中し高負荷状態にあるWebサイトについて、クラウドサービスを活用したサイトの新規構築やミラー(複製)サイトの構築支援の申し出(無償)が相次ぎました。これは、短時間でWebサ イトを構築できるほか、アクセス数の増加に応じて、サーバーの処理能力を柔軟に強化することが可能なクラウドの特性を生かしたものです。

クラウドの提供事業者が自社ホームページ等で公式にこれらの支援を発表したのは、震災発生から3日後の3月14日ごろが多かったように見受けられました。しかし、Twitter上では、大震災による影響の深刻さが明らかになり始めた翌日には、早くもクラウドの無償提供を表明するTweetが関係者から発せられていました(http://twitpic.com/48qttw)。

IT業界がこの1〜2年注力してきたクラウドがこのような形で役に立つとは全く予想しなかったことですが、「今すぐにできること」として、クラウド・コミュニティから、このような申し出が自発的に出てきたことは同じ業界に属する者として、大変誇りに思います。

また、正確かつ迅速な情報提供の重要性が再認識される中で、インターネットを利用した緊急情報などの安定した提供を支援可能なことを示したクラウドは、「企業のITコスト削減」とは異なる、また別の価値を示したといえるのではないでしょうか。

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