「競争しない」マーケティング(後編)

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写真:齊木 乃里子
「真の差異化」を実現するためのコツ 2010年1月
齊木 乃里子/株式会社日本総合研究所 マーケティング戦略クラスター長 主任研究員
市場を明確に区切り、その分野(カテゴリー)の第一人者となることで、競争から抜け出すことができると説く齊木乃里子氏。では、そのカテゴリーはどのようにして見つけ出せばいいのか。ちょっとしたコツがあるという。

プロフィール

1994年京都大学経済学部卒業。99年同大学院経済学研究科博士後期課程修了、名古屋商科大学非常勤講師。2000年近畿大学非常勤講師を兼任。2001年日本総研入社。2006年から現職。
大企業から中堅中小企業までのブランド戦略、新商品開発、営業力強化、新規事業戦略、CS戦略などの支援コンサルティングに従事。
経済学博士。日本商業学会会員。農林水産省「農協の新事業像の構築に関する研究会」委員など歴任。

主な著書

写真:主な著書

まず「誰に」「何を」「どのように」を決める

「競争しない」マーケティングを実践するには、まず「競争しない」ための指針(=コンセプト)づくりが重要です。

指針は、キャッチフレーズではなく、実際のマーケティング活動に落とし込むものですから、「誰に」「何を」「どのように」の三つがそろっていて、かつ矛盾がないストーリーとなっていなければなりません。

つまり、「どういったお客様に対し、どんな“今よりも幸せな状態”をもたらそうとして、どのようなカタチでアプローチするのか」をきちんと描くということです。

この三つの要素に、他社との「違い」や「オリジナル」をどう盛り込むかが、「競争しない」ためのカギとなります。

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「誰に」:他社が気付いていない「ニーズの切り口」を探す

まず、「誰に」とは、どのような人に向けた商品やサービスなのかということですが、「競争しない」ためには「ニーズのありか」を表現することが重要です。

「誰に」の表現としてよく目にするのは、「60代の男性」というように年代や性別で表現されているケースですが、多くの場合、それだけでは不十分です。ターゲットとなる人が持つ不満や期待といった「ニーズ」の切り口による設定が欠かせません。

例えば、楽器メーカーなら「60代の男性で、学生時代にギターをかじったことがあるが、弾き方もチューニングの仕方もあまり覚えていない人」というような設定でなくてはならないのです。

消費財であればライフスタイル、産業財であればビジネスプロセスの中で湧き出る不満や期待を手がかりに、他社がまだ発見していない、もしくは手を付けていない顧客の「状態」の切り口が設定できれば、競争しなくて済みます。

今年6月に発売されたコクヨS&T社の「遺言書キット」は、初めての人でも自分で遺言書を作成できるように、漫画で書き方を紹介した「遺言書虎の巻」や「コピー予防用紙」などをひとまとめにしたもので、初年度の販売目標をわずか4カ月で達成してしまうほどのヒットとなっています。これは、「遺言書作成の必要性を感じつつも、弁護士などに頼むほどでもない、しかし、正式なものが作りたい」という人たちの微妙なニーズを切り口に「誰に」を設定して成功した好例でしょう。

また、他社が気付いていない、あるいは手を付けていない切り口を発見する手っ取り早い方法として、「市場のトレンドの逆をいく」という考え方もあります。例えば、「高齢者」がトレンドなら「子ども」、「男性」なら「女性(もしくはユニセックス)」を基点に考えれば、他社の注力市場とは関係なくビジネスを展開することができます。

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「何を」:「物」ではなく、利用者が受ける「便益」で表現する

「誰に=ニーズのありか」が明確になれば、「何を」は自ずと決まってきます。つまり、「そのニーズを満たした状態」で表現すればよいわけです。

このときのポイントは、製品などの「物」で表現するのではなく、利用者が受ける「便益」、そしてその結果として利用者にもたらされる「良い状態」で表現することです。「これでなくてはならない」と言ってくれる「自社だけの」顧客をつくるためには、それを使うことで顧客にどんないいことがあるのかという「顧客の状態」や「シーン」で価値を表現できなければなりません。顧客は製品の「価値」を買うのであり、その「物」自体が欲しいわけではないからです。

利用者にもたらされる良い状態は、見えていても意外に気付いていないことが多いものです。「利用者にとってこの方が良い」と分かっていても、単なる供給側の都合や常識で、提供されていない価値もあります。そうしたところに着目すれば、「オリジナル」を生み出すヒントが見えてきます。

例えば、「無印良品」(良品計画)の「足なり直角靴下」は、足首からつま先にかけて直角である人間の足の形状に素直にフィットし、甲にしわが寄らないことで長く愛されています。従来の靴下の足首の角度が、編み機や作業の都合から120度となっていたことに着目し、その課題を克服したことで、無印良品らしい「オリジナル」の商品となっているのです。

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「どのように」:ストーリー性のある届け方を考える

三つめの「どのように」は、想定するマーケット(ニーズのありか)に沿った、提供しようとしている価値(良い状態)をうまく発揮できる届け方を検討することです。ニーズを持っている人の購買行動、購入のタイミングや方法、場所などのすべてを矛盾なく設定することが重要です。

「こういう人に向けたこういう商品だから、ここで売っているのね」というようなストーリー性の感じられる設定を考え出したいところです。

例えば、感度の高い人たちに向けたチョコレートは、洋菓子店やお菓子売場ではなく、ファッションビル内のセレクトショップの方がふさわしいと考えられるなら、今まで前例がなくても、そこに置いてもらうべきなのです。

こうして「誰に」「何を」「どのように」の各要素に、「違い」「オリジナル」をしっかりと盛り込むことができれば、全体としてのコンセプトは、他社にとって容易にマネのできないものになります。

「違い」「オリジナル」を意識したコンセプトが明確に設定されていれば、実は、価格や広告宣伝の方法なども、それほど選択肢はないものです。「いくらに設定しようか」とか、「広告はどの媒体がふさわしいのか」という迷いがあるなら、そもそもの出発点があやふやだったということかもしれません。

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「違い」を追求するためのフレームワーク

「競争しない」ための最も重要なキーワードは、やはり「違い」です。前編で述べたことの繰り返しになりますが、「良い」は受け取る側の主観であり、実際の物性より過小評価されがちです。しかし、「違い」は、それを良しとする人とそうでない人の両方に、自社商品のポジションをきちんと伝えることができるのです。

「差異化」を考えるツールであるポジショニングマップを使って、自社商品の「違い」を顧客に伝わるように位置づけていく場合、二つの軸は、「健康に良い」などといった「誰にとっても良いに決まっていること」の度合いを表す「一方向の矢印」(図1)ではなく、「栄養価が高い」と「低カロリー」などの相反する「違った価値」を持つ「双方向の矢印」(図2)で表現するべきです。

図:ポジショニングマップ

「競争する」ことに慣れてしまっている人たちは、双方向の矢印を書いたとしても、その両端にそれぞれ「誰にとっても良いに決まっていること」と「誰にとっても悪いに決まっていること」を軸として設定しがちです。

これでは、一方向の矢印で表現する「程度問題」と何ら変わりはなく、せっかくの自社(商品やサービス)の価値は、思ったほど評価されず、いつまでたっても価格競争に巻き込まれる状態からは脱却できません。

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「競争しない」マーケティングがもたらすもの

「競争しない」マーケティングは、自社だけのマーケット(新たなカテゴリー)を創り、顧客と強い関係を築くことを主眼としています。

そのため、価格競争に巻き込まれないで済むばかりか、「高関与」な顧客と付き合うことができます。とりわけ産業財取引では、このような顧客からの感想や提案が次の新たな価値創造につながることも少なくありません。

新たなカテゴリーにオリジナルの商品を投入して「第一人者」の称号を得ることができれば、時間を経て追随商品が現われたとしても、むしろ自社が手を伸ばすつもりもない、低収益のマーケットでの動きに留まってくれるでしょう。

「新製品やリニューアル品(バージョンアップ品)を必死になって発売しているのに、しんどいばかりで儲からない」「常に買い叩かれる」という企業の皆さんには、ぜひ「違い」に注目した「競争しない」マーケティングを実践することをおすすめします。

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