社員の「承認欲求」を刺激せよ(後編)

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写真:太田 肇
「表彰」でこんなにやる気が引き出せる 2010年3月
太田 肇/日本表彰研究所所長、同志社大学教授
表彰制度の可能性に着目し、その研究と普及啓発に取り組んでいる太田教授。表彰には、社員のやる気、仕事ぶり、職場の空気を一変させるほどの効果があるという。では、どのように活用すればいいのか。モチベーションを引き出すのに効果的な表彰制度や表彰の極意について、国内外の事例を交えながら紹介する。

プロフィール

1954年兵庫県生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。京都大学経済学博士。国家公務員、地方公務員を経験後、三重大学人文学部助教授、滋賀大学経済学部教授などを経て、2004年から同志社大学政策学部教授。2008年からは日本表彰研究所の所長も務める。日本労務学会副代表理事。
専門は組織論、人事管理論。特に、個人を生かす組織・社会について研究。1993年『プロフェッショナルと組織』(同文舘)で組織学会賞、1999年『仕事人と組織』(有斐閣)で経営科学文献賞、2001年『ベンチャー企業の「仕事」』(中公新書)で中小企業研究奨励賞本賞を受賞。

主な著書

写真:主な著書

不況の今こそ「表彰制度」の出番

表彰制度をうまく活用すれば、社員の承認欲求を刺激し、大きなモチベーションを引き出すことができる。さらに、チームワークの向上や組織の活性化も期待できる。

加えて、表彰制度には、会社が社員に対して何を求め、何に価値を置いているのかをシンボリックな形で伝える効果もある。表彰された人を見れば、会社がめざしているものが分かり、それによって社員のベクトルを合わせ、組織への求心力を高めることができるのである。

しかも表彰は、金銭ではなく名誉を与えるものであるため、費用もそれほどかからず、コストパフォーマンスが高い。経済環境の厳しい今の時代だからこそ、表彰制度の出番なのである。

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3タイプの表彰制度

前回説明したとおり、私は国内外の表彰制度を調査し、次の3つのタイプに分類した。

■表彰制度のタイプ
顕彰型特別に高い業績を挙げた人などに対し、その功績を称賛。社長賞、年間(月間)MVPなど。
奨励型陰で善行を積んでいる人、地道に努力を続けている人などに対し、その姿勢を称賛。努力賞、奨励賞など。
HR※1日常における良い仕事(good job)、ちょっとした工夫、気配りなどをたたえる「軽い」表彰。

※1 Human Relations

この3タイプの表彰について、その目的と効果、ならびに運用のポイントなどを説明しよう。

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最もオーソドックスで重い「顕彰型」

「顕彰型」は、特別な功績を残した個人、チーム、部署に対しその功績をたたえる表彰である。社長賞、会長賞、特別功労賞、年間(月間)MVPなどの種類がある。

組織の理念や目標に照らし、模範となるべき人(あるいはチーム・部署)や最も顕著な業績を挙げた人に贈られるものであり、「重い」表彰である。その人の業績や貢献度を会社として公式に評価したものである以上、昇進やキャリアなどにも何らかの形で影響するのが普通だ。当然、社内(場合によっては社外)の人たちからの見方も違ってくる。同じ言葉を発しても、受賞者の言葉というだけで重みがある。

それだけに運用の仕方を誤ると効果がないばかりか、組織内にかえって不信感が広がり、人間関係も悪化するなど逆効果となる恐れがある。実際、トップの一存で毎年最優秀の社員を表彰していた会社では、受賞者の中から離職者が続出し、残っていた社員も受賞後に成長が止まったという事例がある。まさに両刃の剣である。

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「公平性」「透明性」が絶対条件

そこで運用の際に欠かせないポイントとして、第1に、すべての社員に対して受賞の機会が均等に開かれていることが挙げられる。部署間の不平等を防ぐためには、各部署から候補者を推薦し、その中から受賞者を選ぶといった工夫が必要である。

できれば選考基準の異なる複数の賞があった方がよい。プロ野球の年間MVPやベストナイン、ゴールデングラブ賞などのように基準の異なる賞があれば、社員それぞれが自分の得意な分野で受賞するチャンスが広がり、個性を発揮して仕事をする励みになる。

第2に、選考プロセスが透明化されていることである。例えば、業績の内容ごとに定められたポイント、あるいは関係部署の人が役職に応じて配分されたポイントを投じ、それを合計することによって受賞者を決めるような方法がある。また、各階層の代表者から構成される選考委員会を置いているケースもある。

受賞者の選考後は、選考過程や選考理由を公表すべきである。厳密な手続きを取るほど、賞の権威は高まる。

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「縁の下の力持ち」をたたえ、職場全体の士気を高める「奨励型」

「奨励型」は、陰で善行を積んだり地道に努力を重ねたりしている人やチームに対し、その努力や姿勢をたたえるものであり、努力賞、奨励賞などの名称が用いられている。

いわゆる「縁の下の力持ち」をたたえることによって、すべてのメンバーに対し「まじめに努力していれば必ず認められる」という信頼感を与え、組織全体のモラール(士気)を向上させることができる。

また、地道な努力や隠れた貢献を見出そうとすれば、評価する側の観察力・評価能力が問われるので、管理職自身のスキルアップにつながる。さらに、相手の貢献や良いところを探そうとする姿勢が、上司と部下の人間関係を良好にするという副次的効果もある。

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「自己申告」「他者申告」を活用し、納得感を高める

ただ、それでも管理職や上司の目だけで隠れた努力や貢献を評価するには限界がある。

そこで推奨したいのが自己申告、他者申告である。例えば毎年全員に、自分が努力してきたことや貢献したこと、それに同僚の中から表彰に値する人を申告させ、その中から受賞者を選考するとよい。自己申告や他者申告に基づいて表彰すれば、本人からも周りからも納得が得られやすい。

また、人間にとって究極の承認は自己承認であり、本人が認めてほしいこと、承認に値すると考えていることが会社からも認められたなら、それに勝る喜びはない。

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本人をやる気にさせ、職場の人間関係も良好にする「HR型」

「HR(Human Relations)型」は、日常における良い仕事(good job)や、ちょっとした工夫、細かな気配りなどをたたえる「軽い」表彰である。

褒める文化が浸透しているアメリカでは、このタイプの表彰が盛んだ。会社によっては、この種の表彰制度が網の目のように張り巡らされていて、大抵の社員がいずれかの賞をもらえるようになっている。また、オフィスやロッカーには、表彰でもらった帽子やTシャツ、マグカップなどがさり気なく置かれている。そうした表彰用の小物を製造・販売する会社もたくさんある。

日本でも、ファストフードの店やレストラン、それに衣料店などアルバイトや若手社員が多い職場では、このタイプの表彰にゲーム感覚を取り入れて活用しているところが多い。例えば、ある宅配ピザの会社では、新メニューの提案やピザづくり、安全な配達などを競わせ、優秀者を表彰しているが、コンテストには若い社員がこぞって参加し、感激して涙を流すなど大変な盛り上がりようだ。客から感謝の声が届いたとき、あるいは同僚から「サンクス・カード」が贈られたときに表彰しているホテルや鉄道、航空会社もある。

このタイプの表彰は、本人のやる気を高めるだけでなく、職場の人間関係や雰囲気を良くする効果が大きい。さらに客を巻き込むことによって、従業員と客との間に温かい空気が生まれ、それがさらなるサービスの向上にもつながるといった好循環が期待できる。外食産業では、「HR型」の表彰を頻繁に行うようにしてからアルバイトの定着率が高まり、また客から「店の雰囲気が良い」と言われるようになった例がある。

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笑顔で称賛できる雰囲気づくりを

ここに挙げた3つのタイプの表彰のうち、特に普及させたいのは職場全体に影響を与える「奨励型」と「HR型」である。

ただ気を付けなければならない点は、周囲からの嫉妬や受賞者が感じるプレッシャーを防ぐため、表彰を査定と結び付けないこと、副賞が高価になり過ぎないことである。副賞を贈るなら、お金よりも小旅行や食事券、あるいは自宅に飾れる盾やトロフィーなどが喜ばれる。受賞者をイベントに特別参加させたり社長と一緒に食事させたりするのも好評だ。もっと簡素にするなら、休憩時間にみんなで食べるお菓子や飲み物を渡すくらいでもよい。

また表彰の際には、みんなが笑顔で称賛できるような雰囲気づくりも大切である。「顕彰型」が荘厳、厳粛であるべきなのに対し、特に「HR型」の表彰は明るく楽しい雰囲気の中で行いたい。ユーモラスな賞名や副賞、気の利いたエピソードの披露など、担当者の頭のひねりどころである。

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表彰をきっかけとして職場全体に承認の文化が広がる

「奨励型」と「HR型」の大きな効用は、相互承認の場ができることにある。

自分が相手を認めたり感謝したりすることで、自分も相手から認められ感謝される。そうした関係が増えることによって、職場全体に承認の文化が広がり、モチベーションも向上する。表彰することによって承認のきっかけをつくることには極めて大きな意義があるのだ。

承認欲求にうまく働きかける表彰は、投じたコストや労力とは比較にならないほどの効果がある。表彰の目的と本人および職場の状況を見極めながら、最適な制度を設計してほしい。

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