情報メディア第4の波 「デジタルサイネージ」とは何か(前編)

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写真:中村 伊知哉
電子看板では終わらない次世代メディアを活用しよう 2010年12月
中村 伊知哉/慶應義塾大学教授、デジタルサイネージコンソーシアム理事長
街を歩けば大型ディスプレーによる情報メディアが増えてきたことを実感する。電子看板自体は目新しいものではないが、最近「デジタルサイネージ」というキーワードが注目を集めているのはなぜなのか。ビジネスにどう生かせるのか。デジタルサイネージの第一人者、中村伊知哉氏にデジタルサイネージブームの背景や活用のポイントを聞いた。

プロフィール

1961年京都府出身。京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士号取得。ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て、1984年郵政省(現・総務省)入省。退官後、1998年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長。2006年から慶應義塾大学教授。
内閣官房知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会会長、情報通信審議会専門委員、文化審議会著作権分科会専門委員、文部科学省学校教育の情報化に関する懇談会委員、文部科学省コミュニケーション教育推進会議委員。社団法人「融合研究所」代表理事、デジタルサイネージコンソーシアム理事長、デジタル教科書教材協議会副会長、NPO「CANVAS」副理事長、ミクシィ社外取締役などを兼務。
インターネット草創期から日本の通信・放送の最前線で活躍。コンテンツビジネスやポップカルチャーの動向にも精通し、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)『日本のポップパワー』(日本経済新聞出版社)などの著書もある。

主な著書

写真:主な著書

コストの低下で普及に弾み

── まず、デジタルサイネージ(以下、サイネージ)の定義を教えてください。

デジタルサイネージコンソーシアムでは、サイネージを「屋外・店頭・公共空間・交通機関など、あらゆる場所で、ネットワークに接続したディスプレーなどの電子的な表示機器を使って情報を発信するシステム」と定義しています。構成要素としては、液晶モニターなどの表示装置と、コンテンツ、そして情報を配信するネットワークの三つです。

── サイネージの市場はどのような状況なのでしょうか。

サイネージには、導入規模からいってハイエンド、ローエンド、そしてパーソナルがあります。5年ほど前にハイエンドとして大規模商業施設や銀行などに導入されていた状況から、駅や飲食流通などのチェーン店に徐々に普及し、今年に入ってからは中小企業や小さな個店のオフィスにも導入され始めています。

学校や病院といった公的施設にも広がりつつあり、大都市だけでなく地方都市でも目につくようになってきました。また、家の中にまでサイネージが入ってきています。デジタルフォトフレームも、将来的にはサイネージの一種に含まれてくると考えています。

市場規模としてはまだ発展段階ですが、2015年には1兆円市場になるとみています。

── サイネージ市場が盛り上がってきた背景にはどんな要因があるのでしょうか。

一つは、コストが低下して導入が容易になってきていること。市販の液晶テレビの価格が下落してきた実情を考えれば分かるように、ディスプレーが安くなり、さらに配信コストも安くなりました。

もう一つは、サイネージがどんどん目立つようになってきたことです。そうなると「自分のところでもやってみようか。コストも安いし面白そうだ」と、普及に拍車が掛かります。

また、自治体が注目していることも追い風となっています。「防災情報の提供や観光誘致に使えるメディアではないか」ということで、市や町で試してみようというところが増えてきているほか、「シャッター商店街の活性化にも使えるのではないか」という期待も高まっているのです。サイネージを導入すると、さまざまな意味で街が「明るく」なることが期待できます。

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全国で展開されるバリエーション豊富なサイネージ

── そうすると「こんなところでもサイネージ?」といったユニークな事例が各地にありそうですね。

そうですね。例えば、福岡市では街中のサイネージ端末に加え、路線バスの中にもサイネージ端末を設置し、マルチメディア放送波を使って情報を流す実験を行っています。いわば「放送とサイネージの融合」です。これは日本初の試みで、世界的に見ても最先端の事例といえるでしょう。

島根県では、スーパーマーケットの中に置いたデジタルフォトフレームなど20台に広告や地域情報などを配信し、県内の中小企業がサイネージを安価で効果的に利活用できる方法を調査研究していますし、千葉市では、人通りの多い街角に大型ディスプレーのサイネージを設置してお店の人が携帯電話から情報をアップロードする実験をしています。飲食店が日替わりランチの情報を入れ替えるというような用途です。

図:マルチメディア放送波を使って路線バスにサイネージコンテンツを配信(福岡市)
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テレビでもパソコンでもケータイでもない情報メディア

── 既にウェブやケータイによる情報提供と活用は成熟した感がありますが、そうした既存メディアとサイネージとの違いをどうとらえればいいのでしょうか。

最近、私はデジタルサイネージコンソーシアムの定義とはまた別に、「テレビとパソコンとケータイ以外のメディア」がサイネージではないかと考えるようになりました。「第4のメディア」だということです。

メディアが発展してきた流れを振り返ると、まずテレビが普及していく過程があり、続いて1995年ごろからパソコンが浸透してきて、その後、ケータイが普及しました。その三つの波に続く大きなうねりがサイネージだと思っています。

実は、サイネージの現状はインターネットが登場したころの状況に似ているのです。1995年ごろにパソコンが普及してきて、先進的な企業が公式サイトを開設し始めました。当時、インターネットは広告だという意識が支配的でした。ウェブサイトは企業の宣伝から始まり、最初はコンテンツが足りなくてまだ成熟したメディア、ビジネスにはなっておらず、特に地方では進化が遅かったのです。

それが今では、ウェブは広告メディアだけではなく、顧客とのコミュニケーションチャネルであったり、社内の情報共有や総務人事システムであったりと、あらゆる企業活動の中心となっています。

サイネージも同じような進化をしているのです。電子看板から始まって、次第に公共空間などでも使われ出し、さらに、都市部だけでなく地方にも広まっていくといったような大きなうねりが起きています。ウェブがそうであったように、最初は宣伝が主体であっても、これからは思ってもみなかった用途でサイネージが活用されていくのではないでしょうか。

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サイネージの登場によりメディアのすき間が埋まる

── 中村さんはサイネージの普及に向けて精力的に活動されていますが、サイネージに関心を持ったきっかけはどんなことだったのでしょうか。

メディアが発達する過程でまだ空いているすき間や、次に何が来るのかを考えている時に、「屋外でのプッシュ型メディアがある」と気づいたことがきっかけです。SF映画の中で描かれる世界のように、街中にディスプレーがあって情報が流れているというような状況がそろそろ来るのではないか、これは面白いことになるな、と感じました。

そして、サイネージなら「日本でしか実現できないコンテンツの強みが生かせる」「日本型のビジネスモデルが創出できるかもしれない」などと構想が膨らんでいきました。日本という国はいつも、新しいテーマがあると何か工夫して面白いものを生み出すことに長けていますから。

── 「メディアのすき間」「屋外でのプッシュ型メディア」とはどういうことでしょうか。

図:デジタルサイネージのポジショニング

情報には「プッシュ型」と「プル型」があります。テレビは、コンテンツが一方向で流れてきて、利用者はそれを受動的に視聴するプッシュ型のメディアです。これに対してウェブは、利用者が能動的に情報を引き出すプル型のメディアです。

そこに「屋外」と「屋内」という視点を加えてみましょう。「屋内のプッシュ型メディア」がテレビ、「屋内のプル型メディア」がパソコンによるウェブ、「屋外のプル型メディア」がケータイとなります。最後に残っている「屋外のプッシュ型メディア」がサイネージだと考えれば、完全なユビキタスが完成するでしょう。サイネージは時間的にも空間的にもメディアのすき間を埋めるのです。

テレビ広告やウェブ広告との競合を心配する声もありますが、プッシュとプル、屋外と屋内、四つのフィールドそれぞれで何をするかと考えると、テレビやウェブとサイネージの市場は競合することもなく相互に発展するはずです。例えば、医療機関が来院者に向けて効果的な広報を行えるツールとしてのサイネージは、広告とはまた別の新たな市場の創出と見ることができるでしょう。

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地域の中で循環する広告はサイネージで生きてくる

── 中村さんはNHKの番組「Cool Japan」に出演するなど、日本のポップカルチャーにも造詣が深いわけですが、日本の強みでもあるポップカルチャーを生かしたサイネージなども生まれてきそうですね。

写真:中村 伊知哉

アニメやゲーム、キャラクターといった日本のポップカルチャーとサイネージの親和性は高いでしょう。考えてみれば、大衆娯楽であるパチンコ台の1台1台にまでディスプレーが付いていて、そこにはクオリティの高い高精細な動画が流れている──。そんな国はほかにありません。あれも一種のサイネージではないでしょうか。

日本では、お店の人がそれぞれ個性を出して店のキャラクターまで作った上でコンテンツを発信したりする土壌があるので、サイネージも個性的で面白いものになり得ます。ニコニコ動画やツイッターの流行を見ても分かるように、「みんなでアップロードしてみんなで見て楽しむ」、そういう即席でアマチュアなコンテンツを楽しめるカルチャーが日本にはあるのです。コンテンツを生み出す基礎能力が、日本は圧倒的に強いといえるでしょう。

特に関西は面白いですね。大阪などでは、地元でないと絶対にウケないであろう「何それ?」と言いたくなるようなサイネージがあります。

── 今、「地域再生」が日本経済の一つのキーワードとなっています。サイネージは地域活性化にも貢献できるのではないでしょうか。

日本ではその地域でしか通用しないサイネージが成立してしまうのですから、地域振興にも必ずメリットがあります。むしろ地方の方がサイネージの注目度は高いとさえいえます。

その背景を考えてみましょう。日本の広告市場約6兆円の中で、SP広告と呼ばれる交通広告・看板・チラシといった分野の広告費は、それぞれの地方でお金が循環しています。このようにローカルな閉じたエリアで成立している広告市場はサイネージに置き換わりやすい領域です。従って、その領域が電子化されていくことに対する関心は地方でも旺盛なのです。

「消費者はチラシをあまり見なくなっている。電子化することで何とかできないか」──。そういう切迫感は地方の方が強いですね。特に、地方の新聞社や放送局はサイネージについてとても熱心に勉強しているので、今後、新たな動きも生まれてくるかもしれません。

後編では、海外のサイネージの動向や、通信と放送の融合、そしてサイネージの持つ底力などについて聞いていく。(2011年1月中旬公開予定)

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