コアビジネスの成長はITで実現できる(後編)

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写真:石黒 不二代
クラウドが企業にもたらす真の意味 2010年9月
石黒 不二代/ネットイヤーグループ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO、中小企業IT経営力大賞審査委員
インターネット/ITが企業のマーケティングを進化させていくという石黒氏。後編では、なぜ日本企業のIT化は間接業務支援の域を出ないのかを、ITを活用した新たなビジネスモデルが次々と開花するシリコンバレーとの対比によって解き明かす。さらに、これまでITをコアビジネスに活用してこなかったことを悲観するのではなく、逆に今がチャンスととらえるべきだと指摘し、クラウドの活用やストック型への転換がビジネスを飛躍させる鍵になると説く。

プロフィール

1980年名古屋大学経済学部卒業。81年ブラザー工業株式会社に入社しマーケティング業務を担当。外資系企業を経て、92年米スタンフォード大学に留学。94年MBAを取得し、シリコンバレーでハイテク系コンサルティング会社を起業、日米間の技術移転などに従事。99年ネットイヤーグループに参画し、2000年から社長兼CEO。ウェブを中核に据えた、企業のマーケティング活動を支援している。
経済産業省「産業構造審議会 情報経済分科会」「CIO戦略フォーラム」委員など歴任。「日経情報ストラテジー」で『石黒不二代の「CIOは眠れない」』を、「ITmedia」で『石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」』を連載中。

主な著書

写真:主な著書

続々と新たなビジネスモデルが開花するシリコンバレーの秘密

私は、1990年代のほとんどをアメリカのシリコンバレーで過ごしていました。1992年にスタンフォード大学のビジネススクールに入学、94年に卒業後はハイテクに特化したコンサルティング会社を当地で創業、Yahoo!やネットスケープをはじめとするたくさんのベンチャー企業と仕事をする一方で、日本の総合電機メーカーなど大企業のシリコンバレーでの技術の取得や投資を支援していました。

94年といえばインターネットが実質的に商用化された年ですから、シリコンバレーはそのブームに沸いていました。後にドットコムバブルの崩壊という形で一時これら企業は廃業に追いやられることになるのですが、それは投資家の行き過ぎた期待と市場の成長の速度のギャップが生み出した結果であり、ビジネスモデルそのものを否定するものではありませんでした。

現に、それ以降、同様のビジネスモデルが市場の成長とともに開花しています。2000年代に入って日本に戻って感じたことは、日本におけるインターネット企業のビジネスモデルは1990年代にシリコンバレーで既に実現されていたものばかりだということです。

シリコンバレーでは次々と新しいビジネスモデルが開花します。日本経済が迷走する中、なぜシリコンバレーにはそのパワーがあるのかと問われたなら、私は即座に、シリコンバレーは失敗を許し、失敗を評価する文化が根付いているからだと答えます。起業に失敗しても、起業家の2度目のトライを投資家は支援します。起業に失敗しても大企業に戻り要職に就くことができます。この文化がある限り、シリコンバレーは永遠に新しいビジネスモデルを創出し続けるでしょう。

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日本企業には何が足りないのか

私がこの話をするのは、失敗を恐れずトライするという精神が、起業だけでなく、シリコンバレーのすべての企業文化に通じているからです。シリコンバレー全体にこのエコシステム(生態系)が循環していると言っていいでしょう。新しい技術を開発しようとする会社がたくさんあると同時に、新しい技術が生まれると積極的に使おうとする会社が多いのです。

製品が売れれば、新しい技術も、いち早く採算が取れるようになります。そして、顧客からのフィードバックが増えて製品はより良く改善されていきます。需要があるので新しい企業が成長し、新しい製品がモノになる。ユーザーサイドも新しい良い技術を使うことで成長する。こんなエコシステムです。

さて、新しい技術をいち早く採用しようとする会社のモティベーションは何でしょう? それは、生産性の向上にほかなりません。自らの、部門の、会社の生産性向上というものが、新しい技術を評価し採用する人たちのモティベーションになっています。これこそが日本企業に欠落しているシステムです。

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ITがホワイトカラーの生産性を上げる

アメリカに比べ、日本企業のホワイトカラーの生産性は低いレベルにとどまっています。高度成長の時代に日本の企業は世界から羨望のまなざしで見られてきました。しかし、この日本企業が世界に突出して優れていた点は、どちらかというとバックエンドシステムです。ITを利用して高まった生産性も、ほとんどの場合が、工場における品質改良のように、製造現場や流通部門、さらに間接業務で実現されてきました。営業職などの顧客接点の人たちの生産性については、ITは全くと言っていいほどタッチしてこなかったのです。そして、これら顧客接点の現場にも生産性という意識は希薄でした。

アメリカでは、BI(ビジネス・インテリジェンス)ツールなどの生産性向上のためのツールの利用が盛んです。顧客向けのプレゼンテーションをより魅力的にするためのアプリケーションやデバイスも積極的に利用されます。営業の仕事の質を上げるために、常にデータをより有効に利用しようとしているのです。そのために、データマイニングやデータウェアハウスの会社がしのぎを削っています。データやナレッジをうまく共有することで部門の生産性を上げようとしています。

日本では、ITがまだバックエンドや間接業務支援の域を出ていませんが、これらホワイトカラーの生産性向上は本来、ITで実現できることなのです。

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生産性向上を阻むもの

私は、今まさに、日本のITも生産現場や間接部門だけでなく、最前線のホワイトカラーの生産性を上げていく時期に差し掛かっていると考えています。またIT部門には、それを実現するための十分な知識と技術力が備わっていると思っています。

しかし、一つだけそれを阻む要素があるとするならば、それは、人事制度です。日本では、シリコンバレー型のエコシステムが働いていません。新しい技術を採用するよりも、他に倣えの技術を採用する例が多いのです。その理由は、日本のホワイトカラーの人事制度や評価制度が生産性の向上に指標を置いていないからです。

失敗しても右に倣えなら罰せられないという制度の中では、ITの能力は半減します。ぜひ、会社の指標に成果主義や生産性を取り入れ、一人ひとりが自らの生産性を意識して働く現場を実現させたいものです。

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既にクラウドは次の段階へ

今、IT部門は大きなうねりの波に直面しています。それは、クラウドの利用です。日本では、このクラウドに関しても利用が遅れていますが、私はクラウドこそ、各企業の生産性や利益率を上げる大きな要因になると考えています。

クラウドの概念は、シリコンバレーでは1990年代から論議されてきました。「やがて、電気やガスのように情報も使っただけ徴収されるシステムになる」──。そうした信念の下、電気やガスのような、安全に制御され送配信されるシステムを実現するために、シリコンバレーの企業たちは躍起になっていました。

クラウド市場の成長を見てみると、面白いことに気づきます。現在クラウド企業といわれている企業は、クラウドのシステムを提供するためにつくられた企業というより、GoogleやYahoo!のように、検索サービスなど、自らのサービスのために、たまたま、太い回線と巨大なシステムを装備しなくてはならなかった企業です。その結果、世界のコンピューティングリソースは、指で数えられるほどの企業に集約されてしまっているといわれているほどです。そして、これら企業がプラットフォーム側として、まるで一人勝ちのようにいわれています。

しかし、産業のステージは、次の段階に移行しています。つまり、クラウドのインフラやアプリケーションなどを専門に提供する企業が現れています。これら企業は、それぞれのサービスレイヤーに特化しているので、サービスレベルも上がるはずです。今や、クラウドは情報インフラの安定提供に向けて動き出したと言っていいでしょう。

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クラウド時代はビジネスチャンスの時代

写真:石黒 不二代

このクラウドという産業の成熟を、各企業は好機ととらえるべきでしょう。

情報産業の歴史をたどると、最初はインフラからハードウェア、アプリケーションに至るまですべて自前主義だった時代を経て、やがてパッケージソフトを使うようになり、さらに、システム自体がオープンになってきました。このオープンシステムは、IT部門にとって部門の負荷を減らすという意味で朗報でしたが、実際には、サーバー管理はもとより、クライアントのハードウェアやソフトウェアのアップデートなどメンテナンス業務はかえって煩雑になっています。さらに、インターネットがウィルス・スパム・セキュリティーという新たな負荷までもたらしました。

しかし、クラウドにより、IT部門はやっとこれらの負荷から解放されます。ITは、ようやくその知識や経験をアプリケーションやデータやコンテンツなど企業のコアサービスに振り向けることができる時代がやってきたのです。

日本企業は、これまで積極的にITをコアビジネスに使ってきませんでした。それは、反対の意味で、チャンスがあるということです。実は、日本企業には眠れる資産がふんだんにあります。例えば、これまで貯め込んだまま使われていない顧客データベース。デジタル化の社会の中で、ウェブ上でのユーザー行動とこの顧客データベースを統合すれば、顧客の嗜好が見えてこないでしょうか? 営業部門にもっと精査した顧客データを渡すことができるのではないでしょうか?

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メディア企業に見るコアビジネス成長の事例〜「ストック型」への転換でチャンスが広がる

あるいは放送局が持つ過去の放送コンテンツ。放送コンテンツをデジタル化するということは、単にアナログをデジタルにするという価値の変換ではありません。例えば、NHKの子会社であるNHKエデュケーショナルはネットイヤーグループと共同で、現在、「みんなのきょうの料理」というサイトを運営しています。そのサイトでは、過去に放映された8,000のレシピが閲覧できます。ユーザー参加型で、プロの250人の先生のほかに、一般の人もレシピの投稿ができます。

テレビでのコンテンツの放映は、その日限りであり、今日作りたい料理を見られるわけではありません。サイトでは、「マイレシピ」という好みのレシピをまとめたページを作ることができ、タグを付ければ惣菜によってレシピの検索もできるので好みのレシピをすぐに取り出せます。以前から、NHKは「きょうの料理」という番組のほか、これをまとめた形で出版もしていました。しかし、出版物では、データの格納や取り出しは個人がキッチンに本を並べて探すという作業で行われていました。インターネットは、その煩雑さを解決しています。

さらに、「みんなの趣味の園芸」(NHK出版)というサイトでは、EC(Eコマース)を始めています。同じコンテンツを使って、放送ではできなかった販売という新しいビジネスモデルを生み出したわけです。

つまり、放送ビジネスというその日に終わる「フロー型」ビジネスを、ウェブという誰でもいつでも見られる「ストック型」にすることで、NHKは、資産として持っていたコンテンツを使い、広告やECをはじめとする新たな収益源を得ることができたのです。

現在、苦渋をなめる雑誌・新聞業界にも朗報があります。アメリカの経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、過去半年間で購読者を増やし、全米ナンバーワンの発行部数を誇るようになりました。もちろん、紙媒体でなくデジタル版の購読者が増えているのです。これは、他の新聞社が半年ごとに10%ほど発行部数を減らしているのに比べれば驚異的なことだといえるでしょう。

「ウォール・ストリート・ジャーナル」のビジネスの転換は、単なる紙媒体からデジタルへの変換以上のものです。購読者は、コンテンツをパーソナライズでき、自分の好きなジャンルのコンテンツだけを閲覧することができます。さらに、過去の記事、また、同紙と同じダウ・ジョーンズ社が発行する週刊投資情報誌「バロンズ」の記事も検索できるようになりました。デジタルのサイトには、ビデオが満載で、新聞の域を超えテレビを閲覧しているような効果があります。しかも、ヘッドラインは10秒ごとに変わります。ビデオの閲覧の前に広告を流すなど新しい広告スペースが増えています。株価情報をカスタマイズしておけば、証券会社のサイトを見る必要はありません。つまり、「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、優秀な編集力という資産を生かして、新聞ではなく金融情報プラットフォームへと変換を遂げたのです。

これらの例を見ていただくと、ITが、コアビジネスの成長にいかに有効かお分かりいただけるでしょうか? そうです。やっとITがフロントに立って企業の成長をリードする時代がやってきたのです。

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