どうすれば消費者に分かりやすく伝わるのか(後編)

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写真:池上 彰
企業にも生かせる「こどもニュース」のノウハウ 2009年11月
池上 彰/ジャーナリスト・元NHK「週刊こどもニュース」キャスター
分かりやすく伝えるには、何よりもまず、自分自身が理解を深めることが不可欠だと言う池上氏。後編では、説得力を高めるためにはどうすればいのか、「週刊こどもニュース」はなぜ分かりやすいのか──などについて聞いた。

プロフィール

1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、73年NHK入局。報道記者として事件、災害、消費者問題、教育問題など担当。
94年から2005年まで「週刊こどもニュース」のキャスター(お父さん役)。同年NHK退職。現在、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。
『高校生からわかる「資本論」』『「見えざる手」が経済を動かす』『経済のこと よくわからないまま社会人になってしまった人へ』など経済関係の著書も多い。

主な著書

写真:主な著書

あるセールスパーソンの“苦悩”

── 分かりやすく伝えるには「相手の立場になり切り、相手に対する『思いやり』を持つことが大切」とのお話がありましたが、消費者の立場でセールスを考えると、自社商品のアピールではなく、中立的な視点から様々な商品を比較した上で「あなたにはこれがいいのでは」と勧めてもらう方がありがたいと感じます。

私もそう思います。例えば、ある会社にある製品を売り込んでいるとき、実はその会社には、自社の製品よりも競合するB社の製品の方が合っているということがあり得ますよね。そういうときには、無理して相手に妥協してもらうよりも、「本当はB社の製品の方が合ってますよ」と正直に言ってしまった方がいいと思うのです。

相手は「『自社製品の方がいい』と言うに決まっている」と思っているところに、「あなたの会社のことを考えたら、B社の製品の方が合っています」と言われれば、「この人は本当に私の立場になってコンサルティングしてくれている。こんな人を雇っているこの会社は信用できそうだ」と感じ、そこに真の信頼関係が生まれるのではないでしょうか。

そうなれば、「今回は、うちの部署ではB社の製品を導入するけど、ほかの部署を紹介するよ」、あるいは「取引先のあの会社を紹介してあげるよ」という形で、チャンスが広がっていくと思うのです。

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説得力を高めるには「適切な具体例」を

── 「他社製品の方が合っている」と正直に言うことは、販売機会を逃すことになるのではなく、その顧客からの紹介で市場が広がり、そこから自社の製品とマッチした顧客を見つけて販売すれば、顧客満足度も上がる。自分自身もジレンマから解放されて、やりがいも感じられる。みんながWin-Winの関係になれるというわけですね。

写真:池上 彰

そういうことになりますね。BMW東京の社長やダイエーの会長などを経て横浜市長になった林文子さんに、自動車のセールスをしていたころの話を聞いたことがあるのですが、最初に飛び込み営業で入った家は、とても車なんて買えそうもない経済状況だったそうです。

それでも、そのお客様のことをひたすら考え、いろんな手伝いをしていくうちに、奥さんから信頼を得ます。そして、奥さんからいつも林さんの話を聞いていたご主人の会社で、同僚から「自動車を買おうと思っているんだ」という話が出たときに、「それなら信頼できるセールスがいる」と紹介された。そこからすべてが始まったのです。

売ったあとも「その後どうですか」といつも気にかけていると、お客様は知り合いに車を買いたい人がいると「いいセールスがいるから紹介するよ」ということになる。そこからドンドン広がっていくわけです。

── 林文子さんの体験談のような具体例を聞くと、「その人には買ってもらえなくても紹介によって市場が広がる」という話の説得力が一気に増し、とても分かりやすくなりますね。

やはり、分かりやすく説明するためには、適切な具体例が必要です。先に抽象論を話すと分かりにくくなる場合は、まず具体的な例から話した方がいいでしょう。大学の授業はいきなり抽象論・一般論から始まることが多く、そこで眠くなってしまうといったことになりがちです。先に具体例を出してから、「その具体例から言えることはこういうことです」と一般論を説明すれば、分かってもらいやすくなります。

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セールスにも“つかみ”が必要

── 具体例から入ると、興味の持ち方も違ってきますね。

放送で言うところの“つかみ”です。視聴者は「面白くない」と思ったらすぐにチャンネルを替えてしまいますから、最初に「面白そうだな」と思ってもらわなければなりません。落語で言えば“枕”ですよね。枕を笑って聞いているうちに、いつの間にか本編に引き込まれていくという形です。

セールスも同じことでしょう。最初に興味を引く話ができなければ、「時間のムダだから帰ってよ」と話を聞いてもらえません。

ある高級外車のトップ営業マンの手記によると、お客様に対して最初に話すのは、その車のセールスポイントではなく、「自動車がある暮らしの素晴らしさ」なのだそうです。例えば「これから紅葉のシーズンになりますね。○○の紅葉はきれいですよね。○○の山道をドライブすると最高ですよ」といった車のある暮らしの楽しさについて語った方が、お客様は車が欲しくなるというのです。

── マーケティングの世界に「ドリルを買った人が欲しかったのは、ドリルではなく『ねじの穴』である」という格言がありますが、それと通じる話ですね。

そうです。一部の自動車好きを除けば、ほとんどの消費者は自動車が欲しいのではありません。休日にドライブする楽しさや、どこへでも自由に移動できたり、雨の日でも濡れずに出かけられたりする利便性を得たいのです。

── だからこそ、車の性能の説明から入るのではなく「車を買えばこんな生活が待っている」という利用シーンをまず語るわけですね。

ええ。購買意欲が高まった段階で、初めて「お一人で乗りますか? それともご家族とですか?」「お一人ならこんなスポーツタイプもありますし、ご家族なら4ドアセダンもありますよ。大勢で乗るならワゴンはいかがですか?」といった話に移るのです。

そのとき、相手の立場になり切り、相手への思いやりを持って想像力を働かせることができれば、相手がどんな生活をしていて、どんなことを必要としているのかを思い描くことができ、相手の心に響く最適な提案ができるというわけです。

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こどもニュースが分かりやすいのは「目標が明確」だから

── 最後に、「週刊こどもニュース」などのノウハウで、企業が参考にできることを教えてください。

写真:池上 彰

「週刊こどもニュース」がなぜ分かりやすいかというと、プロジェクトとしての目標が明確だからです。「世の中の難しいニュースを、子どもにも分かるように伝える」。この明確な目標があるおかげで、例えばアルバイトの大学生が「これ、分かりません」と言ったとしても、「大学生のクセにそんなことも分からないのか」という言葉は出てきません。「大学生に分からないのなら、子どもに分かるわけがないよね。じゃあ、どうしようか」と、みんなで知恵を絞るわけです。

「子どもにも分かるように」というコンセプトだけでも十分に画期的だったのですが、実際に現場で番組を作っていくには、相手が小学校低学年なのか、高学年なのか、中学生なのかをはっきりさせる必要があったため、「抽象的な概念も理解できるようになる『小学校5年生』に対して分かりやすく伝える」と、ターゲットをさらに明確に絞り込みました。

企業ではよく「お客様第一」とか「サービス品質向上」といった目標を掲げていますが、抽象論過ぎる目標だけでは、単なるお題目に終わってしまうでしょう。その「お客様」とは誰なのか、「サービス品質」とは何なのかを突き詰めて、めざすべき目標がクリアになってこそ、言い換えれば、社員にとって分かりやすい目標設定ができてこそ、初めて、「そのためにどうすればいいのか」を具体的に考えることができるのです。

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まずは社員に「めざすべきもの」を伝えよう

── 消費者に対してだけでなく、社員に対しても分かりやすく伝える必要があるということですね。

そうですね。そういう意味では、「こどもニュース」という番組名も大きな役割を果たしています。番組名を口にする度に「子どもにも分かりやすく伝えなきゃ」と毎回、思わざるを得ませんでしたから。

ここから企業にとっての教訓を導き出すとすれば「プロジェクト名の重要性」です。明確で分かりやすい目標を設定し、それにふさわしい分かりやすいプロジェクト名を付ける。そうすれば、プロジェクト名を言ったり、聞いたり、見たりする度に「そうだ! これをやらなきゃいけなかったんだ」と、誰もが思い起こすことができます。企業では、活動を進めるうちに本来の目的を見失い、手段が目的化してしまうことがありがちですが、分かりやすいプロジェクト名にしておくことで、そうした落とし穴に陥ることも避けられるのです。

消費者に分かりやすく伝える努力はもちろん大切ですが、その前に、「何を消費者に伝えるべきなのか」を明確にしておくことが必要でしょう。そのためにも、企業はまず、自社の社員に対して、自分たちのめざすべきものは何なのか、そもそもこの会社は何のためにできたのかということを、今一度“分かりやすく”伝える努力をするべきではないでしょうか。

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