元特捜部長が語る取り調べの極意

写真:河上 和雄
まずは自分をさらけ出す 2008年10月
河上 和雄/元東京地検 特捜部長
ロッキード事件の捜査などで辣腕を振るった元特捜検事の河上和雄氏。検察官として多くの被疑者と対峙してきたことで、人間の奥深さを身をもって知ることができたという河上氏に、相手の心の開かせ方について聞いた。

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プロフィール

1933年東京都生まれ。56年東京大学法学部卒業。 58年検事任官。
70年ハーバード大学ロースクール修士課程修了。83年東京地検特別捜査部長。87 年法務省矯正局長。89年最高検公判部長。91年退官、弁護士登録。
現在、日本テレビ客員解説員、石油資源開発社外取締役、NPO全国万引犯罪防止機構理 事長など務める。

主な著書

写真:主な著書

黙秘権のある相手を自白させるということ

─ 取り調べの現場では、刑事訴訟法に基づき、「自己の意思に反して供述をする必要はない」という黙秘権があることを告げた上で、否認している被疑者に対して は、その意思に反する自白を求めることになるわけですね。そうした状況で相手の心を開かせるにはどうすればいいのでしょうか。

黙秘は必ずしも被疑者にとって有利になるとは限りません。例えば証拠が固まっているのに頑なに黙秘を続け、法廷でも否認したままなら実刑は免れないでしょう。

そうした場合、検察官は「これだけ証拠があるのに黙秘を続けてもあなたにとって不利になるばかりだ」と説得するわけですが、その説得を聞き入れさせるため には、まず「この人の言うことは本当だ」ということを相手に思わせなくてはなりません。何度も何度も本当のことだけを言い続けているうちに、どんなに疑り 深い相手でも、段々とこちらの言っていることが本当だと分かってくるはずです。

ただ、それは一朝一夕でできる話ではありませんし、また、実際の事件では相手も千差万別ですから、「こうすれば相手は心を開く」というような方法はありません。やはり、相手をよく見て、相手に合わせた対応をしていく以外に方法はないでしょう。

─ 取り調べのテクニックのようなものはないのでしょうか。

もちろんいろいろあります。例えば意図的に相手を怒らせるようなことを言い、激怒させる。すると人間はつい、いろんなことを口にしてしまいますから、その言質をとらえて追及するとか。

セールスでも、相手を買う気にさせるテクニックは無数にあるでしょう。しかし、それで相手が心を開き、自分を信頼してくれたかというと、それは全く別の話で、相手の心をつかんだわけではなく、単に相手のお金をつかんだだけのことでしょう。

テクニックを使っただけでは、本当の意味で相手と心を通わせることはできないのです。

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二人の間に共通感が生まれなければ取り調べは成立しない

─ 河上さんは「取調官と被疑者の間に何らかの共通感が生まれて初めて取り調べが成立する」とおっしゃっています。その共通感をつくるにはどうすればいいのでしょうか。

被疑者と本当に心が通い合うかは別として、最終的には人間対人間の問題になります。ラポール※という言い方をするのですが、心理的な共通感が生まれてこない限り、なかなか本当のことはしゃべらないというのが実際です。

取り調べる側が、相手を犯罪者として見下し、自分の方が人間として優位に立っているというような態度では、共感など生まれるはずがありません。人間は誰に でも弱い部分があり、「相手と同じ環境にあれば自分だって罪を犯したかもしれない」という認識を持つべきです。相手と同じ目線になって、一対一の人間とし て、誠実に向き合うことが基本でしょう。

心理的な共通感は、一つのことに関して互いに同じような考え方や似たような好き嫌いがあるか、そんなところから始まるものです。それをつくり出すには、ウ ソ偽りのないあるがままの自分をさらけ出すことです。自分は鎧兜に身を隠し、相手に何も見せないで、相手の本音を探ろうなんて無理な話です。

まずはこちらが心を開き、本当の自分を見せていく。その上で、相手の言い分をしっかりと受け止める。ただし、客観的に正しくない言い分であれば当然説得す る。その説得を受け入れ、罪を認めることは、相手にとって大いに心の救いになるわけですし、心の底から反省すれば、情状酌量の余地も生まれ、相手にとって プラスになるのです。

このように、いわば当たり前のやり取りを、地道に、そして誠実に繰り返していれば、テクニックなど弄せずとも、結果として自ずと関係は築かれていくものです。

※面接者と被面接者の間に気持ちの通じ合う共感的関係ができることを指す心理学用語。

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会話している自分を客観的に見つめる

─誠心誠意、ありのままの自分をさらけ出していくしかないわけですね。しかし現実には取り調べのうまい人とそうではない人がいると思います。その違いはどこにあるのでしょうか。

頑なな被疑者に対し「自白することが結局は自分にとってプラスになる」と分からせるのは、被疑者に自分自身を客観視させることと似ています。自分を客観視できれば、いかにバカげたことをしているかが分かるはずです。

そうしたことから考えると、取り調べのうまい人は、自分自身を客観的に見ようとする努力をしている人だといえるでしょう。被疑者と話している最中でも、一 歩退いて、自分のやっていることは果たして正しいかどうか、それを客観視することが必要です。こちらが相手を見極めようとしているのと同様に、被疑者だって当然「この人は信用できる人なのか、出世や自己保身しか考えていない人なのか」などと、こちらの人柄を見極めようとしているのですから。

取り調べに限らず、人と向き合うときには、自分を客観的に見つめ、より俯瞰的に物事をとらえようとする心構えが必要なのではないでしょうか。

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