『踊る大捜査線』からの教訓

写真:金井 壽宏
組織の鮮度を保つために 2006年12月
金井 壽宏/神戸大学大学院 経営学研究科 教授
「事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きているんだ」。このせりふに多くの人が共鳴するのは、「情報なき本部」と「権限なき現場」という現実社会でも散見されるジレンマが投影されているからだろう。『踊る大捜査線』には、組織論を学ぶ格好のケーススタディとなるシーンやせりふが豊富にちりばめられている。

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プロフィール

1954年兵庫県生まれ。78年京都大学教育学部卒業。80年神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。89年マサチューセッツ工科大学でPh.D.(マネジメント)、92年神戸大学で博士(経営学)取得。94年神戸大学経営学部教授。99年から現職。リーダーシップ、モチベーション、キャリア・ダイナミクスなどのテーマを中心に、個人の創造性を生かす組織・管理のあり方について研究している。

主な著書

写真:主な著書

極限状態にあるだけに警察組織からの教訓は奥深い

日本では昔からよくテレビドラマで『太陽にほえろ!』や『部長刑事』などの警察モノが取り上げられてきた。最近の『踊る大捜査線』(以下、『踊る』と略称)シリーズも世代を問わず人気がある。

警察を舞台にしたストーリーは、会社での組織生活を考える上でどれほどのヒントとなるだろうか。

マチューセッツ工科大学留学時の恩師が警察組織の研究で名高い学者だったこともあり、私はMBAの授業で警察組織にまつわる教材にも触れてきた。会社でないからこそ、かえって学ぶべきことが多いのだ。銃を持った被疑者と対峙するなど極限状態に直面することも多い警察組織からの教訓はなかなか奥深い。

特に『踊る』は、組織理論の専門家の目で見ても学ぶことの豊富な素材だ。プロデューサーの亀山千広さんは、私との対談ではっきりと「これは組織を描いているのです、それもリアルに」と言われた。

確かに、軽妙なタッチで面白おかしく描かれてはいるが、例えば、犯人を追い求めて全国を渡り歩く『部長刑事』の方がシリアスなようで、実はリアルではない。なぜなら、現実には所轄というものがあるからだ。

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現実の企業も抱える「本部」と「現場」のせめぎ合い

『踊る』では、事件が起こるなり、「所轄はどこか」「うちがやるのかどうか」が問われる。捜査本部が設置されることになれば、「○○捜査本部」という看板を立て、本庁から来るスタッフの弁当や仮眠・宿泊のための準備までしなければならない。

こんな面倒だけならまだ我慢できるが、現場の刑事が機動的に動きたいここぞという場面で、本部が横やりを入れる。事件は現場で起こっているのに、本部は会議室で会議ばかりしている。正しい戦略を打ち出すのが本部で、その戦略を生み出す場として会議が機能するのならいいが、現場の機動性を妨げるのが本部だとしたら情けないことだ。

本部の横暴に対して防波堤になり、言うべきことを言ってほしい肝心の現場の指揮官たち(署長、副署長、刑事課課長の「スリー・アミーゴス」)は実に頼りない。また、現場のことが分かる本部の幹部スタッフになってほしいと期待されたホープ・室井管理官(柳葉敏郎)は、上層部と現場との板挟みになり、「正しいことができないんだ。自分の信念も貫けない」と嘆く。

捜査会議では、自身の生涯を現場での捜査と署員の指導に傾けてきた和久指導員(いかりや長介)が、さすがという意見を言ってのける場面でも、本庁から来た幹部は「文書で出しなさい」と受け付けない。

組織の理想か現実か、会議室か現場か、ピラミッド組織か自由裁量度の高い組織か、強力なリーダーか末端の自主性か―。『踊る』は、現実の企業組織が抱える今日的な課題を取り込み、そのせめぎ合いを描いている。だからこそ我々の胸に響くのであり、また、リアリティーをもって組織論を学ぶことができるのだ。

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「組織で勝つ」ということ

『踊る』の映画第2作では、犯人はリストラされた人たちで、組織を憎み、階層を嫌っているという設定だ。犯人たちは、捜査に従事する青島刑事(織田裕二)に対し、「組織に縛られている警察などには、リーダーや階層がなく対等で機動的なグループであるおれたちを捕まえられるはずがない」とうそぶく。

現に青島たちは、上部に権限が集中し末端に裁量権が降りてこないため身動きが取れずにいた。しかし、室井管理官の勇気ある決断により、現場に自発性と自由裁量を持たせる自律型組織に切り替えたことで、組織が変革され、メンバーが鼓舞され、組織に命が吹き込まれた。そして、全員が、使命を完遂しようと自律的な意思で動くことにより、「組織が勝った」のである。

だから最後の場面で「リーダーが優秀なら、組織も悪くない!」という青島刑事のせりふが生きてくる。

『踊る』のように、楽しく共感をもって、しかも、若手にもミドルにもベテランにも訴えるところがある映像素材を基に、皆さんも自分たちの組織にある、本部と現場との意思疎通の問題、リーダーシップの問題などをぜひ一度、話し合ってみてほしい。組織の鮮度を保ち、現場をエンパワーする(任せて力づける)ために。

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