黒田官兵衛最高の出世劇を 演出した至高のナンバー２ 　様々な企業の買収・合併などにより、破竹の 勢いで規模を拡大しているヘッジファンドグルー プ、戦国ファンド。そんな同社がターゲットとし たのが、中国地方に拠点を持つMOURIグ ループの鳥取電子だ。鳥取電子だけでなく、 MOURIグループ本体の攻略をも視野に入 れ、事業本部長と秘書の黒田官兵衛は戦略を 練っていた。 　ハイブリッド車のエンジンに使用するレアアー ス加工などにおいて、世界に誇る技術力を持つ 鳥取電子を何としても配下に収めようと、幾度 となく会議を行い、戦略立案を繰り返していた 戦国ファンド。しかし、なかなか決定打を出すこ とができずにいたとき、官兵衛が動いた。鳥取 電子の全ての取引先からレアアースを相場の倍 の価格で買い占めたのだ。官兵衛の奇策はそれ だけではない。品物そのものに加え、レアアース の販路までも手中に収めたのだ。 　「おみゃー、一体何をやっとるんだぎゃ？ バカ ほど金をつぎ込んどるらしいが…」と事業本部 長はぼやくものの、官兵衛は確信していた。 1580（天正8）年6月の鳥取城攻めでの経 験があったからだ。鳥取城を攻める前、兵糧を 相場の倍の価格で買い占め、鳥取城内の兵糧を ほとんど空にした上で包囲網を敷き、わずか 2ヶ月で落城させた兵糧攻めでの経験が。 　成果はすぐに現れた。事業の根幹であるレア アース供給が皆無になったことで、事業継続が 困難になった鳥取電子は、戦国ファンドの子会社 となることを条件にレアアースの供給を申し入 れてきたのだ。 　官兵衛の活躍により、MOURIグループ本 体への攻略の足がかりを手にした戦国ファンド。 しかしその後、さらなる激動の運命が待ち受け ているとは、事業本部長と官兵衛には思いもよ らなかった。 　2人は、MOURIグループ本体への本格的 な買収に着手。堰き止めた川の水を流し込み、 備中高松城を水攻めにしたかつてのごとく、幹 部社員のヘッドハンティングや子会社の切り崩し により相手への包囲網を形成し、少しでも有利 な条件を引き出すことに奔走していた。しかし そのとき、大事件が勃発する。事業本部長と官 兵衛を抜擢したファンドの社長が、下克上よろし くある幹部社員にクーデターを起こされ、失脚 してしまったのだ。 　「しゃ、社長が…」と、入社後ずっとかわいがっ てくれていた社長の失脚にショックを隠せない事 業本部長に、官兵衛は即、こう耳打ちした。 　「すぐに本社に戻りましょう。今動けば、他の 幹部の動きに先んじて、社長の敵（かたき）をと ることができるはずです。やられたらやり返さ ねば。倍返しです！」 　もちろん、勝算はあった。1582（天正 10 ） 年に起こった本能寺の変で織田信長が横死し、 相対している毛利家と畿内の明智勢との挟み 撃ちによる羽柴家存続の危機に直面した際、羽 柴秀吉に「御館様（信長）が亡くなった今、天下 を取るのは殿（秀吉）しかおりませぬ。ご運が 回ってまいりました」 と耳打ちして、秀吉に 天下取りへの第一歩 を踏み出させた官兵 衛。毛利家との示談 を急ぎ取りまとめ、 畿内へ早々に駆け戻っ て明智光秀を討ち滅 ぼしたのは、「いつ天下 獲るの？ 今でしょ！」とばかりに迅速に動いた、 「中国大返し」によって実現されていたからだ。 　事業本部長は、官兵衛のアドバイスどおり、 MOURIグループとの契約を急ぎ締結し、本 社に戻る道すがら、クーデター派と袂（たもと） を分かっていた幹部などを取り込み、クーデター 派を一掃。その功績により、事業本部長は次期 社長の座に最も近くなったのだ。 　しかし、そのころには、それまで「水魚の交わ り」とも言えるほど近かった2人の心の距離は、 徐々に離れ始めていた。 　秀吉が信長の後継者としての座を確固たる ものにした際、冷静沈着に中国大返しを提言し た官兵衛の知謀に感謝しつつも、「諸刃の刃だ」 と考えたと言われているように、事業本部長も 「次に寝首を掻かれるのは自分か…」と恐れた のだろう。 　八重の桜が散るかの如く、2人の関係は変わ り始めたものの、後に戦国ファンド社長までのぼ り詰め��太閤殿下.と言われるまでになった事業 本部長の秘書として、その後も官兵衛は常に側 にいたとかいなかったとか。 企業の経営トップなどが 最高のパフォーマンスを発揮できるよう、 スケジュール管理や文書作成などの 業務を行い、時に重要な資料作成や 予想外の事態への対応も迫られる秘書。 もしも、そんな現代の秘書を 歴史上の有名人が務めたら…。 今回は、黒田官兵衛が秘書として 企業のトップを支えます。 兵糧攻めならぬ ��レアアース攻め.でサクッと落城！ 中国大返しでクーデター派を 一掃し��倍返しだ！. ※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係はありません。 切れすぎる ��諸刃の刃.な知謀 19 　WINTER 　WINTER 18