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ー現在までに、230作以上の創 作落語を世に送り出してきた文枝 師匠ですが、落語をやろうと思った きっかけは何だったのでしょうか。  大学在学中、桂米朝師匠の「七度 狐」を見たのがきっかけです。座布団 の上に座って、語りと所作で世界を作 り出す。もうね、その姿に衝撃を受け ました。伊勢参りに行こうとしてい るふたりの男が、狐に騙され、青い空 の下、麦畑を裸になって歩いていく… そんなイメージが僕の中に流れ込ん できたんです。実物を見るよりも鮮 明な情景が。これはすごいものを見 た、と思って興味を持ちました。 ーもともと、何かを表現すること などに興味を持っていたのですか。  高校生のときには演劇部や絵画部 に入っていましたし、コメディーや漫 談にも興味があって、いろいろとやっ ていました。というのも、僕は父親を 早くに亡くしたこともあり、幼少の ころは、寂しい思いをしたことも多々 あったんです。ただ、花菱アチャコ先 生のラジオドラマ「お父さんはお人 好し」とかのおかげで、本当に明るく 過ごさせてもらえましたので、「人を 楽しませる」「ほのぼのさせる」ための 何かをやりたい、という思いを強く 持っていました。  それが演劇や絵画などへの挑戦に もつながっているのですが、今考えて みると、自分が桂米朝師匠の落語で 受けたような衝撃を、他の人に伝え たいという思いはおぼろげながら 持っていたかもしれません。そして、 その思いを持って経験した全てのこ とが、落語に出会うための礎になって いたのかな、と思いますね。 ー落語との出会いの前に、様々な 素地があったのですね。それでは、初 舞台の時から本領発揮、だったので しょうか。  いやいや、初舞台は全然ダメでし た。道頓堀の角座で初めての高座に 上ったのですが、まったくウケなかっ た。ただ、とてもいい経験をさせても らったという意味で、一番記憶に残っ ています。  なぜ記憶に残っているかというと、 僕の落語自体はまったくウケなかっ たのですが、とあるところで初めて会 場がドッとウケたんです。何かな、と 思ったら、舞台にネコが入ってきた。 予想もしなかったことが起こって、会 場が沸いたんです。それを見ていて、 おぼろげではありますが感じたんで すね、落語は生き物.なんだと。 ーそんな初舞台から現在まで、数 多く高座に上ってこられた文枝師匠 にとって、見る人の心を響かせるこ ととはどんなことでしょうか。  いかに、人の心に入り込む言葉を 紡ぎ出すか、それに尽きると思いま す。もちろん、そういった言葉は簡単 に出せるものではありません。上っ面 で出せるものではなく、腹の底、心の 奥底からしか出せないものだからで す。それをスッと出せるようにするに は、日々の稽古が欠かせません。  特に落語は、ひとりで何役も演じ ますし、場の雰囲気や自分自身の熟 練の具合によって演じる時間が変わ るといった複数の要素が絡み合う。 そうした様々な事象に対応しながら の落語は、稽古の積み重ねなしには 成し得ないものなんです。 “ 日々の稽古”が紡ぎ出す 人の心に入り込む言葉 りと所作で実物以上に 鮮明な情景を描かせる く言葉は、腹の底から しか出てこない “響く”顧客コンタクトの演出 語 響 ビジネスを円滑に進めるうえでは“心に響かせ、印象的な顧客コンタクトを演出” することが重要になる。だが、相手の心を響かせ、自社の存在を際立たせること は容易ではない。そこで、言葉、所作などあらゆるものを駆使した落語で人々を 魅了する、落語家・六代 桂文枝氏に相手の心を響かせるための妙技を聞いた。 しち ど ぎつね 15  AUTUMN  AUTUMN 14