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第8回「NTT西日本コミュニケーション大賞」グランプリ

電話部門

先生大好き!ありがとう。

美代(ペンネーム)

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 ビューっと風が吹く寒い日だった。前日の夜、飼い犬のシロが死んだ。私が生まれる前から我が家に居た、大きな真っ白の雌犬だった。優しい性格で、私にとっては姉のような存在だった。学校に行く道すがら、ずっと涙がこぼれていた。二年生の教室に着いて椅子に座っても、心の中はシロの事で一杯だった。先生が入って来た。笑い声が大きい、とびきり明るくて、どこか私の母に面影が似ている沢先生だ。先生は私の顔を見るなり、「どうしたぁ?」と聞いた。私はしかめ面に涙を一杯浮かべていた。答えようとしたけれど、「シロが・・シロが死んで…。」と言うのが精いっぱいだった。先生は、「そうかぁ、今日は悲しい日やな。思う存分泣いてもええで。」涙が次から次へとこぼれた。そこが教室でも、皆が見ていても止まらなかった。先生は普通に授業を進めた。友だちたちも、先生も、それきり何も言わなかった。私は何者にも邪魔されずに、枯れるまで涙を流す事が出来た。
 私たちが通う山あいの小学校は、人数が少なくふたクラスしかなかった。私は一年生から六年生まで変わらず沢先生が担任だった。母に似ている先生が私は大好きで、何かと甘えたり、ひっついたりしていた。うちは母子家庭だったので、母は働きに出ていて不在気味だった。そのせいもあって、先生は「お母さん」のような存在でもあった。実際私は先生の事を何度も「お母さん」と言い間違えたが、先生は「お母さんちゃうでぇ。」と笑いながら頭を撫でてくれた。夏休みや冬休みになると、先生に会えないのが寂しくて学校に行ったり、先生の家に遊びに行ったりした。先生は私が一人で突然訪れても、迷惑なそぶりも見せず、いつも優しく受け入れてくれた。皆の先生なのだけど、私にとって特別な人だった。
 六年生になって、冬を越した頃先生は病気になった。丸くて艶々した顔が、見る間に細くなっていった。私たちは心配で何度も「先生早く元気になってやぁ。」と言った。2月に先生はとうとう学校を休む事になった。担任は臨時で教頭先生が兼ねた。卒業式の前日、先生から家に電話がかかって来た。「卒業おめでとう!六年間、よく頑張ったなぁ。先生卒業式に行けんでごめんなぁ。」わたしはその声を聞いて、すぐに涙があふれた。涙声で「先生、卒業式にはこれへんの?」と聞いた。先生は「一足先に電話で卒業式やね。声だけやけど顔が目に浮かぶで。又泣いてるんか?小さい時から変わらへん泣き虫やなぁ。でもそれは、美代の良い所やな。優しい証拠の涙やな。」
 卒業式で沢先生の電話の事をクラスメートに話したら、一人ひとり、皆の家に電話があったらしい。先生は私たち皆を心から可愛がってくれた。卒業まで担任ができなくて残念だっただろう。それから私たちは山を降りてマンモス校の中学生になり、部活や新しい友人との毎日に埋没していった。高校に入り、大学生になり、その頃初めて先生が亡くなったと聞いた。卒業式のすぐ後だったという。なぜ知らせてくれなかったのか…。今からでも先生のお墓にお参りしたい。そう思って私は先生のご実家に電話をかけた。先生のお母さんが出られて、先生の生前のご意志で子どもたちにはその死が知らされなかったのだと聞いた。優しくて大好きな子どもたち、その門出を力いっぱい元気に祝ってあげたい。先生の死を悲しまないで。先生はいつも皆の事を見守っています。お母さんはそれだけ告げて電話を切られた。先生、私は涙をこらえる事もできるようになったよ。悲しくても、それを乗り越える力も身に付けたよ。2年生だったあの時、先生が思いっきり泣かせてくれたから。今の私は悲しくてたまらなくても、先生の笑顔を思って笑う事もできる。でもやっぱり、涙が少し頬を伝った。優しい証拠の涙やね。先生、ありがとう。先生、大好き。

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